49 とうせんぼく
「この先は行っちゃダメッ」
少年は車の前に堂々と立ち、そう言った。
少年の背後の一本道の先には、とあるCMで一躍有名になった海の見えるロケ地があった。
しかし、その場所は私有地。始めこそ土地の所有者の厚意で解放していたのだが、余りにもマナーがなっていないという事で、立ち入りを禁止した。
良識を持つ者ならそれを見て引き返すのだが、更に問題は続いた。
張り紙をしても、柵を立てても不法侵入が後を経たない。
土地は荒らされ、土地の所有者は、しなくても良いゴミ拾いまでさせられる始末。
日常を侵害され、すっかり疲弊していた。
それでも、ロケ地を見たいと人は押し寄せる。
二進も三進もいかなくなった頃、その少年は現れた。
この少年が現れてからというもの、人は素直に立ち去るようになった。
しかし、少年の言葉を聞き入れない輩が次第に現れる。
バイクの集団が押し寄せてきたのだ。
他の者達に言うように少年は言う。
「この先は行っちゃダメッ」
春暖のトップに居た者は、二十も三十も離れた子供なら、睨めば逃げていくだろうと考え、無言で圧力を加えるも、少年は引かない。
「この先は行っちゃダメッ」
繰り返す少年。勝ち気で生意気案子どもだと判断したトップの者は、手で後ろの仲間を活かせようとする。
指示に従い、エンジンを吹かす集団。
「だから、行っちゃダメッ」
少年が繰り返すも、聞いてられるかと、集団は一斉に走り出した。
いくら少年が両手を広げようとも、大人一人か二人程度の幅しかない。
何十台ものバイクを止めるなど不可能。
誰もが思う揺るがない事実。だが、その事実が覆る。
少年の両の腕がろくろ首のように伸び始め、集団を丸ごと抱きしめたのだ。
戸惑う集団。化け物に殺されるとまでいう声が聞こえてくる。
「だからダメッつて言ったんだっ」
少年は、もう手加減しないと、腰を捻って抱えた集団を丸ごと海に放り投げた。
こうして私有地は守られた。
同時刻、岩清水コーポレーション第一会議室にて
「こちらがリアルタイムの映像です。如何でしょう、当社開発のとうせんぼく。皆さんの防犯に一役買う事間違い無いですよ」
開発者が、最新防犯ロボのプレゼンをしていた。
駄目押しとばかりに、開発者は声高に訴えた。
「どうですか、我が社の新製品は!!」