47 ひめくりっ☆ カレンダー
「岩清水さん、お届け物でーす」
と、配達員がやって来たので、俺は受け取った。
「この出版社は……。来たかっ!!」
ガッツポーズで大喜びの俺。
とある懸賞に応募していた俺は、当選したのだと思い、当選の舞いとばかりに小躍りしてから中身を開封した。
「ん? なんだこれ……」
思えば、俺が欲しかった物よりも箱の中身が軽い気がしていた。
ズレ防止のビニールと保護用の厚紙と剥いで、中身を確認した。
「か、カレンダー!? しかも日めくりって……」
昔、爺ちゃんの家には広辞苑かと思うほどに分厚い日めくりカレンダーがあった。
大晦日の前あたりから遊びに行っていたから、まだ捲られる前の、出番がやって来る前の物を知っていた。
「弱ったな。俺は几帳面に毎日捲るなんて出来ないぞ」
こんな嵩張る物を貰っても……と、俺は困った。
「にしても、俺の記憶にあるのよりも薄いな。拍子的には一般的な感じだけれど」
とりあえず、一枚目を捲ってみる。
「なんだぁ? 正しい本カレンダーの捨て方ぁ?」
カレンダーなんて、用が済んだら丸めてゴミ箱に入れれば良いだけのはず。それが、正しいと付いている。
遂に紙の捨て方にまでマナーを求める厚かましい時代になったのかと、俺は憤慨した。
「アホらしい。どんな日めくりだよ」
二枚目を捲る。何処かで見た覚えのある顔だ。少し考えて、俺は思い出した。
「これ、外国の姫様じゃないか」
時折ニュースとかで見る顔。たった一人のお姫様の日めくりカレンダーという事なのか?
俺はパラパラ漫画の要領で最後まで見て見る事にした。
結果は、俺の想像とは違った。
月毎に十二人のお姫様の顔写真が変わるというものだった。そして、手が込んでいる事に、四週で納まらない場合は、五枚目も用意され、きっかり月が変わると写真が変わった。
「これ、日めくりじゃなくて、週捲りカレンダーだな」
とつっこみつつも、だからといって使おうという気にはならない。
どんな間隔であろう捲るという行為をする事が面倒臭いからだ。
それと、やはりこのカレンダーは気に入らない。
「なんで目だけ捲る度にくりっとしていくんだ?」
出来の悪い合成写真のような気持ち悪さ。一週毎に大きくなり、違和感のみを与えてくるカレンダーなんて嫌すぎる。
「よし、ゴミ箱行きだな。というか、俺が応募したのと物が違うじゃないか」
どういう事かと、カレンダーをゴミ箱に突っ込んで、応募した懸賞を確認した。
なんか、外れた人の中から抽選で一名に送られる貴重な物だと分かった。
けれど、やはり要らないし、転売するという気にもならなかったからゴミ箱行きは変わらない。
翌朝、やたらと外がうるさくて目が覚めた。
呼び鈴連打に、ドアノックの乱れうち。
「おい、うるさいぞ。邪魔だっ!!」
睡眠を邪魔され、俺は怒鳴った。
すると、一斉に様々な言語が俺を襲った。
「な、なんだ、これ!?」
何一つ言葉が理解出来ずにいると、一人の背広な男が前に出てきた。
「早朝からすみません、岩清水さん」
腰の低い男から聞こえる母国語。まるで外国の中で聞くような感じで、安心できた。
「な、なぁ。これはなんの騒ぎなんだ? 説明してほしいです」
話しながら、気持ちが冷静になっていく。
背広の男は言った。
「あなたは、十二カ国のプリンセスを侮辱した罪に問われています。これから、十二か国分の取り調べを受ける事になり、実刑は免れられないでしょう」
寝耳に水で、とんでもない話だった。
「お、俺が!? 何もしてないぞ」
「いいえ、しました。あなたが昨日受け取ったカレンダー。あなた、ぞんざいに扱いましたね」
確かに、俺はゴミ箱に捨てた。
まさか、それがこんな事態を招くだなんて……。
茫然としていると、黒服のがたいの良い二人組が俺の両脇に立ち、俺を持ち上げた。
「え、あ、ちょ」
軽々と持ち上げられ、動揺する俺。抵抗しようにも宙ぶらりん状態でどうする事も出来ない。
「では、行きましょうか」
背広の男にそう言われ、俺は車に押し込まれた。