43 首ったけ ~君と出会った季節~
とある平屋の一軒家に、仲睦まじい夫婦が暮らしていた。
二人は、縁側で庭を眺める事を日課としていた。
ある日、何処からか虫の鳴き声が聞こえてきた。
「あなた、セミが鳴いていますね」
音にして、一匹といったところ。まだまだ弱々しいのは、やって来たばかりだからか。
「そうだなぁ。最近日差しも強さを増してきた。すぐそこまで夏が来ているな」
夫の方が、そっと妻の手に自分の手を重ねる。
「そうですね。私達の思い出の夏が……」
今も忘れられない思い出。二人は同時に当時の事を思い出し始めた。
時は室町時代。
ある屋敷に忍者が一人、潜入した。
「出会え、出会え」
見つかった忍者を捕えようと武士達が集まる。
しかし、忍者は手強く、一人で苦無に手裏剣で相手を近付かせず、忍刀で斬り捨てるという健闘を続け、周囲には亡骸の山が出来ていた。
残す武士も残り数名にまで減らす事に成功するも、体力の消耗が激しく、逃げるにも厳しい状況。
「その腕、お見事。だが、お前の命運もここまでよ」
指示役に徹していた一人の武士が、刀を構え、忍者に言った。
「例え尽きようと、土産は貰っていく」
忍者も最後の力を振り絞り、忍刀を握りしめる。
両者、雄叫びと共に斬りかかった。
「あの時の出会いは今思い出しても滾るな」
「そうですね。私も身が震えます」
二人は思い出話で熱くなった気持ちのままに向き合い、身を寄せた。
「っと、いけないな。互いに首が無いから接吻が出来ん」
「未だに名残が抜けず、いけませんね」
二人は可笑しい、可笑しいと笑いあった。
ここはあの世。
二人は今日も、仲睦まじく庭で幸せな永遠を過ごしている。