41 ねたみ かおみ
とある一家の食事時。
出て来ないねたみの部屋の引き戸を開け、かおみが呼ぶ。
「ねたみー、ご飯だよ。起きなさーい」
「ごめーん、かおみ。寝てるから無理ー」
「はぁ? 返事してるんだから、起きてるでしょ。早くしなよ」
ねたみの動きたくない言い訳だと思い、かおみは急かした。
「そうね」
「だからごめんって。起きれないんだって」
繰り返すねたみに、かおみは痺れを切らせて中に入る。
「じゃあ、この会話は何? さっさと起きなさいよ」
「そうね」
「でも、もう起きれないんだよ。顔見たら分かるよ」
「はぁ? さっきから何を言ってる……」
ねたみの顔を見たかおみは固まった。
「し、死んでる!?」
「そうね」
「な、何で!? というか、私は誰と話してるの?」
「もっと上に顔上げて」
目の前で呼吸の無いねたみ。しかし、今もねたみの声は聞こえていた。
その声に従い、かおみは顔を上げた。
「うわっ、なんか半透明なねたみが居るっ!!」
「そうね」
「魂出ちゃってさ。なんか耐久年数が過ぎちゃったみたい。ごめんね?」
茶目っ気たっぷりに謝るねたみ。
「いや、そんなそんな軽い感じで謝られても……」
「そうね」
「魂だし、なんか俗世とかどうでも良くなっちゃってー」
「あんたねぇ……。これ、どうするつもり?」
「どうも出来ないよ。だって、私、触れないも~ん。だから、後はご自由に」
「ご、ご自由って、こんなの扱いに困るんですけど」
「そうね」
「それはぎょーせーに頼もう。困った時にはTELしてねってやってるじゃん」
「そんな羽毛並に軽い話じゃないから」
「そうね」
ねたみの軽さに、呆れ果てていた。
「あ、なんか呼ばれてるから、行くね。じゃ、あっちか、来世でまた会おうね」
「ちょっと待ちなさいよ。話、まだ終わって無いんだけど」
「そうね」
どんどん天へ昇っていくねたみを引き留めようとするかおみ。
「あ、因みにご飯のメニューは何だったの?」
「流しそうめんだよ」
「「そうみが喋ったぁ!?」」
普段から頷く事しかしていなかった彼女のレアな発言に、二人が驚く。
「いや、今生の別れなのに、献立で終わるのってどうなの?」
「……そうね」
「あー、なんか湿っぽくなくていいや。じゃ、またね~」
明日にでもすぐ会えそうな挨拶で、ねたみは旅立った。
「いや、ほんとにどうしたらいいの、これ?」
困り果てたかおみは、そうみに尋ねた。
「……そうね」
そうみも困り果てていた。