40 引っ越し祝い
舞台はとあるアパート。
その日、一台の引っ越し業者のトラックが止まった。
トラックから運ばれる荷物。業者による運び出しが終わり、数時間後。
新入居者の隣りの部屋の呼び鈴が鳴った。
「はい、何でしょう?」
男が答えた。
「私、今日こちらに引っ越してきた者です。引っ越しの挨拶に来ました」
そう言われ、ドアを開ける男。
挨拶に来た者が、ドアに隙間が出来た事を確認すると、ガッとドアを開けた。
「な、何をする!?」
「どうも、こんにちは。死神ですよ。何時も隣り寄り添う死が挨拶に来ましたよ。さあ、死ねぇっ」
空間から鎌を取り出し、ザシュッと一振り。
ばたりと男は倒れた。
「今日もまた一つ、ノルマを達成しました」
満足げな死神。
「フハハハハハ」
不敵な笑い。斬り殺されたはずの男が立ち上がった。
「な、馬鹿!?」
「俺が何者か知らなかったようだな。表札を見ると良い」
男に言われ、死神が確認する。
「な、何だこの名前は!?」
「俺の名前は生生生生四つも生がある男だ。一つ生を刈り取られた所で死ぬものか」
「お、おのれぇ……。ならば後三回切り捨てるだけだ」
鎌を握る手に力を籠める死神。
「遅い。必殺受肉パンチッ!!」
死神の頬にストレートパンチが当たる。
「うわぁぁぁ。こ、これは……」
まさかの事態に戸惑う死神。
「私、受肉してるぅぅぅぅ」
「ふっ。これでお前は生きている事になった」
「そ、そんな。死は安らぎ。だというのに、私が生きていたら意味が無い」
「相手を楽にする事だけ考えて無いで、生きてみろよ。身に沁みるかもしれないぜ。それに、安らぎばかりだと、布団で寝続けるだけと変わらないぜ。その体は俺からの引っ越し祝いだ。楽しみな」
そう言ってドアを閉める男。
殴られ、その場に座り込んでいた死神は、ドアに視線を向けたまま呟いた。
「生生、しゅき……」