表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
41/166

38 お荷物

 昔々の事じゃった。

 ある所に野獣を狩る事を生業とした男が居った。

 今も昔も変わらず、猟師と呼ばれる仕事をしていたその男の名は上上かみじょうと言った。その名の通り、上へ上へと進もうとする上昇志向の強い男だった。

 その男の傍には、何時も荷物持ちの男が居た。

 荷物持ちの男は、岩清水と呼ばれ、何時も何時もとろい遅い鈍いと、上上にどやされていた。

 さて、この時代。お化け幽霊は柳、襤褸切れ、呑んだくれと言われ、気のせいだと言われていました。

 ですが、とある怪奇だけは存在していました。皆からは鬼と呼ばれている生き物です。

 頭にとんがり、角二本。おサルのおけつが写ったか。はたまた呑まれて抜けたのか。赤や青などの様々な彩りの体色を持つ、人の二も、三も倍は大きなお人が恐れられていた。

 上上は、何時も山に入ると岩清水に繰り返した。

「おらぁな、こんな毛臭どもで終わる男じゃねぇど。おらぁな、奉行様に鬼首見せてえ、鬼斬り大将になあんだからな」

「なんら、こっちゃあ鬼斬り大将の荷物持ちだなあ」

 岩清水は、いつもそう返した。

 上上はそれが気に入らなかった。何せ自分の荷物持ちは、とろい遅い鈍いの三拍子。

 岩清水が居れば、調子も拍子も狂ってしまう。

「おらぁな。鬼斬り大将になったら、おめえなんか捨ててやるからなあ」

「なんら、こっちゃあ、鬼が出んように神さんに祈らぁな」

 岩清水は分かっていた。そんな事をせんでも、狩場の山にゃ鬼なんぞは居らん事を。

 長く入っているから、お互いに鬼にゃ出くわさない事も分かっていた。



 ある日の事。何時もんように二人は山に入った。

 何時もは鉄砲と小刀だけを持ち歩いていた上上だったが、この日は鉄砲、小刀に加え、何処から仕入れたのか、刀を背負っていた。更には、何時もの道具は岩清水に預けていたが、何故か後生大事に何かの入った皮袋だけは自分で身に付けていた。

 この日の狩りは、今までに無いほどに厳しい道中だった。

 何故か上上は山の険しい道を選んで進む。

 岩清水が休もうと進言しても耳を閉じたように歩き続ける始末。

 そうやって進み続け、山は夜になった。

 やっと足を止めた上上。へとへとになり、精も根も尽き果てた岩清水は、一点を見つめ、方で呼吸をしていた。

「今日は大物を狙おうと頑張ったが無理だった。おめえにも無理させたな」

 そう言いつつ、上上は夕食を作り始めた。

 岩清水に背負わせていた荷物から、鍋と水取り出し、火を起こして沸騰させる。

「今日は良いもん食わせてやるからなあ」

 上上はそう言うと、後生大事にしていた革袋の中身を取り出した。

 紫色をした、食うには勇気の必要な色をした物だった。

「そらあ何だあ?」

「こらあな、珍味だ珍味」

 岩清水の問いかけに上上はそう答えた。

 一口大に切り分けたそれを鍋に入れ、しばらく煮込み続けると、食欲をそそる良い匂いがしてきた。

「更に腹あ減って、煎餅みてえになりそうだあ」

「そうか、そうか。じゃあ、ずずっと食っちまえ。さあさあ」

 上上はそう言うと、出来た煮込み汁を岩清水のお椀に入れてやった。

 何時もは自分が先だと上上。しかし、今日に限っては、岩清水に進めてくる。

 珍しくも、厳しい道を歩かせて、収穫が無かった事を悪いと思ったのだろうと、岩清水は思った。

「んじゃあ、お先にもらうなあ」

 ズズッと一口。この世の物とは思えんほどに美味いと岩清水。

「なんら、ドンドン食え食え」

 お椀にどんどん盛る上上。美味さと空腹とで、岩清水は何もかんも無くなって煮込み汁を食い続けた。

 そうしたら、岩清水は頭に二つ。引っ張られるような痛みを覚えた。

「な、なんかあ、頭痛えよお」

 そう言って、岩清水は自分の頭を触った。覚えの無い突起が二つ、今も成長していた。

「上上、こりゃあ、なんだあ?」

 煮込み汁以外に原因を思いつかないと岩清水。

 上上は、無言で岩清水の背中を踏みつけた。

「くるしいぞお、何するよお」

 逃げ出そうとするも、山歩きの疲れもあって、跳ね上げる力が出てこない岩清水。

「美味かったかあ? 鬼のモツはよお」

「お、鬼のモツだってえ!?」

 それは、人が食せば鬼になると言われる危険な物だった。

「それじゃあなあ。おらぁのためにありがとうなあ」

「止め、止めろおおお」

 上上は背負っていた刀を抜いた。



 翌日、一人戻って来た上上は、鬼の首を奉行様に見せに行った。

 上上の皮袋ははち切れんばかりに詰まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ