35 君主はだ~れ?
とある飲み屋さんでの事。4対4の男女の合コンが開かれていた。
「王様だーれだ」
「はい、俺で~す。じゃあ、2番が4番と変顔対決」
私達は、今と言う時を全力で楽しんでいた。
今、私達の年代では王様ゲームが流行っている。
場温めにやる基本の王様ゲームのルールは変わらず、くじ引きで王様を決め、他のくじに書かれた番号を指定して何かをさせるというもの。
どこで合コンをしても必ず王様ゲームをやるくらいの定番。
とは言っても、王様ゲームやろうよと言ってから準備を始めるのは手際が悪い。
そこで登場するのは執事君。これは人の名前じゃなくて役割。
ゲームをしようと言ったら、準備しておいたくじを出すというポジション。
仕切り役として上手く場を回せたなら、一目置かれたりもする。また、このポジションを獲得すると、合コンへの参加を頼まれる事が多くなる。
「じゃあ、そろそろ新王様ゲームを始めちゃう?」
「イエ~イッ」
基本の王様ゲームで自分達のハードルが下がり、テンションが上がった所で、執事君が提案し、皆がそれに賛同した。
「じゃあ、ここから切り替えま~す。皆、王様の言う事は~?」
「ぜった~い」
声を揃えての宣言。
「それじゃあ、くじを混ぜて~。王様だーれだ?」
執事君の手から皆がくじを掴んで引き抜く。
「ぼ、ぼくだ~」
純朴そうな見た目の子が新王様ゲームの最初の王様になった。
「じゃあ、アピールタイムは30秒。皆、くじの番号を自分の前に置いて。じゃあ、1番からどうぞ」
執事君の進行で始まる。
「私、2番と5番の二人の一発芸がみたいな~。ほら、食べさせてあげるから、お願い」
唐揚げを口に運ぶ1番。王様は言われるがままに口を開け、唐揚げを食べる。
「はい、終了で~す。次は2番、どうぞ」
「俺は、1番と3番の抱き合いが見たい。時間は10秒で。王様、選んでくれたらこんなの送らせてもらうぜ」
と、画像を見せ、王様に便宜を図る2番。
そう。新王様ゲームとは、王様に自分の望みを言い、如何に言う事を聞かせるかというゲーム。
皆、自分が王様になった時の優越と、アピール時の次こそは自分が良い目を見るんだという欲とが混ざり合った大人のゲーム。
相手が異性なら、同性よりも優位に事を進めるに決まってる。そんな考えは誰もがすぐに浮かぶ。けれど、これは素人の間での認識。
「じゃあ、そろそろ時間だから、次が最後のゲームで」
執事君が時刻を確認し、ラストゲームの宣言がされた。
皆、最後には自分が王様で良い気分で終わらせたい。そんな欲がグツグツと煮えていた。
「最後の王様だ~れだ?」
「あ、自分だ」
相手は男。なるほど。彼が最後ね。
私は、4番を引いていた。
皆、それぞれ最後の一杯を驕ってとか、一番高い一品料理を自分に提供しろとか、そんな要求を王様にしていた。
そして、私の番が来た。
「支払いは王様と3番と5番と6番でして欲しいな」
男連中を狙い撃ち。王様も含まれているから、当然皆が拒む。
普通に求めたのなら。
私は持ち時間の30秒の中で、王様に耳打ちをした。
その内容はここでは言えない。
私の時間が終わり、残りの人達の要求も終わり、王様の命令の時がきた。
「今日の支払い、自分達が払いま~す。王様の言う事は、絶対です」
私の要求が通り、女子側は自分達の要求は通らなかったけれど、歓喜に沸いた。
王様は後で男連中に非難されるだろう。
けれど、王様はそんな事を気にはしていない。
合コン後、私は最後の王様だった子と二人でとある建物の中に居た。
「ちゃんと言えて偉かったわね。ご褒美をあげる」
ロウソクを相手の体に垂らし、ご褒美をあげる。
「ありがとうございます、女帝様っ」
大喜びでお腹を見せて服従する彼。
私は、新王様ゲームを一番楽しんでいると思う。
事前にメンバーを確認し、全員を調教するのが私の楽しみだ。
全員が私の手の平の上で知らずに踊る様は見ていてとても愉快。
「次の参加メンバーは誰だったかな」
手帳を捲り、次のメンバーを確認しつつ、適当にご褒美をあげる。
絶対君主な私は、次回も王様ごっこをするメンバーを横目に、ただ酒を飲むのだ。