34 コメを炊く
私には人に言えない趣味がある。
「さてと、今日も始めますか」
スマホで撮った写真を吟味しつつ、内容を考える。
「これでいこうっと」
先日行った流行りの喫茶店。そこで売り切れ続出のケーキを食べられた時の写真を選び、自分のSNSに投稿。
「ふらっと入った喫茶店でケーキを食べましたー。たまに食べ慣れた味とは違う物を口にするって大事だね」
あくまで気軽に、何の気なく立ち寄ったという雰囲気を強調した文面。
これを投稿すると、早速コメントが付いた。
「それ、並ぶ事の多い有名なお店のケーキですね。運が良いですね」
これは良さそうな相手だと思った。私は早速、コメ返しをした。
「普段は並ぶんですね。私の時は全然並ばなかったので、穴場なのかと思いました」
嘘だ。私も一時間は並んだ。これでも開店前から並んでだから運が良い方だろう。
私の返しに、すぐに相手が反応する。
「速すぎじゃない。張り付いてそう」
でも、私は引いていない。見込んだ通りの相手だと思って嬉しくなっているだけ。
「穴場って、知らないんですか? ここ、雑誌とかでも特集されているお店ですよ」
知っている。だからこそ行ったのだから。でも、私はそうは返さない。相手はこちらが情報に疎いのだろうとマウントを取っているつもりだから。
「普段行くお店よりも周囲が賑やかだったので、普通の人向けのお店なのかなって認識でした。知らなくてごめんねー」
もっと立地の良い高級店が主戦場だから他は分からないのとマウント返し。
この返しに、相手はヒートアップ。もう少しじわりじわりと温度を上げていきたかったのだけれど、そうはいかなかった。
「見栄ですね、分かります。早く以前の生活を忘れられると良いですね。節約のために格安のスーパーを探す事をおすすめします。それから、自炊もおすすめですよ。料理が出来たらの話ですが」
私がただの無能金持ちだと思い、煽る煽る。中々に香ばしく、そろそろ炊き上がる勢いだ。
「親切にありがとうございます。格安スーパー、良いですね。安い食材で友人を舌を唸らせるのも楽しいと思います。安価食材で腕を競うというのも楽しそうです。今度、友人達と会を開いてみますね。もし近所のスーパーが品薄になっていたらごめんなさい。きっと私達です」
貧乏人には出来ない大量買いが出来るほど裕福ですよ。友達もたくさん居ますよアピール。
すると、相手は所詮地位だけの関係だとか、庶民差別だと、どんどん個人から大勢へと分母を増やして喚きだした。こうやって相手が騒ぎ出すと、今まで話に入って来なかった相手も集まってくる。
ドンドンコメ数は増え、全てを読むのも面倒になるくらいだ。
「ほっかほかなコメがたくさんだわ。あー、たのしっ」
世間で言う炎上状態を眺め、私は満足だった。
自分達の時間を私のためにどぶに捨てている。相手が無駄行動をしていると思うと、私は楽しくて仕方が無い。
後は完全に燃えきるまで放置するだけ。私は、どんなコメが描かれているのかも興味が無い。
だって、私が悦に浸るためだけにする行為で、お金は一切生まれないからのだから。
下で騒ぐ声なんて、遥か高みに居る私には届かない。
後日。この前投稿して炎上した喫茶店から訴状が届いた。
内容を見るに、私が投稿した事でお店側に何やら被害が生じたらしい。
散々警告したというのに何ら行動を起こさなかったため、訴えることにしたようだ。
私の心に火が付いた音がした。