表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
36/166

33 ろっくろっく体操

 草木も眠るだなんて、四六時中明るいこの国じゃあ死語みたいなものだ。

 けれども、そんな時間に俺はテレビを見ていた。

 チャンネルを巡れば、番組をやってる局もあったが、俺は死んだ魚のような目で砂嵐を見ていた。

 音も消音にはせず、16くらいにして、ただずうーっと眺めていた。

 ただただ考える力も無く、あるがままに見つめていた。

 その番組は、突然始まった。



「みんなー。ろっくろっく体操の時間だよー。画面の前のみんなー。準備は良いかなー?」

 まるで幼児向け番組のお兄さんみたいなテンションのMC。後ろには小さな子どもが何人も映っていた。

 無気力状態でも、深夜に始まったこの謎番組には反応する他無かった。

「こんな時間に体操って何だよ。近所迷惑じゃないか」

 誰からも反応は無い一人暮らし。それでも言わずにはいられなかった。

「ちゃんと周りを見てー。両手を横に広げて、グルグルカラカサ回りだよー」

 今までに聞いた事の無い、独特の言い回しだった。

「だいじょうぶだったかなー? それじゃあ、ろっくろっく体操始めるよー」

 軽快な音楽が流れる。

「じゃあ最初は、両手をへにゃへやさせるよー。へにゃへや~」

 タコの足を再現するジェスチャーと同じ動作をするMCと続く子供達。

「次は飛んで空中で体をネジネジするよー」

 飛んでいる間に体を左右に捩じる運動をするMC。小さな子には難易度が高いのではと思ったが、ちゃんと出来ている。

「次は首を回してまるを描いていくよー」

 ラジオ体操でもある動きをするMC。

「それじゃあお終いは首ネジビューン」

 何をするのかと思ったら、空中で体を捩じったのと同じ動きを首でやるというもの。

 けれど、それでは終わらなかった。

「じゃあ、皆でいくよー。首ビューン!!」

 MCの首が伸びた。それだけじゃない。子供達の首も伸びた。

 ろくろ首を連想させる。というよりもそのものだった。

「画面の前の皆、出来たかなー? それじゃあ待ったねー」

 カメラの前に子供達と一緒に集まり、手を振ってお別れするMC。



 番組が終わると、再びテレビは砂嵐になった。

「な、何だったんだ、今のは?」

 CGか素人ドッキリか?

 意味の無くカメラを探すも無い。

「ちょ、ちょっとやってみるかな……」

 妙な好奇心が俺を突き動かす。が、深夜だし、部屋でやるのは問題がある。

 俺は外着に着替え、部屋を出た。

「えっと、腕をタコにしてたか……」

 テレビだからやらせだろうと思いつつも、俺は緊張していた。

 順を追って体操をしていく。

 日頃しない動きのせいか、飛んで体を捩じる時点で息が上がっていた。

 それでもやり続け、最後の首ビューン。

「まるを描いて、最後にビューンっと」

 見た通りにやってみた。すると、自分の身長以上の光景が広がった。

「お、俺にも出来ただと!?」

 驚きを隠せない。

 その時、キャーッと悲鳴が聞こえた。

 驚き、その方角を向くと、どこぞのマンションの一室から外を見ていた女性と目が合った。

 そう。俺を見ての悲鳴だったのだ。

 慌てつつ、俺は訳も分からずわたわたしていたら、首が何時の間にか戻っていた。



「これが全部だ。言っておくが、危ないものなんて一度もした事は無い」

 あの後、俺は警察に連れて行かれ、窓も何も無い個室へと連れて行かれた。そして、経緯について話した。

「そうでしたか。因みに、今この場で出来ますか?」

「体操をしろと? まあ、出来ますけど……。離れてもらえます?」

 警察は分かったと言って離れた。

 これで何を証明するのかと小首を傾げつつ、体操をした。また首が伸びた。

 すると警察の連中は目に涙を浮かべ始めた。

「ろくろ首一族の同朋が見つかった。今日はめでたい日だ!!」

 訳が分からない。

 が、そう言って歓喜に沸く自称警察の連中の首が次々と伸びだした。

 ギョッとする俺。

「たまにお化け界の電波が地上まで飛ぶ事があるんだ。目撃者が居ても、皆が都市伝説だろうとうやむやになるが、今回は仲間が見つかった。こんなに嬉しい日は無い。さあ、我々の世界へ案内しよう。とても過ごしやすい、良い世界だよ」

 なるほど。どうやら俺が何をやっても上手くいかなかったのは、そもそも居る場所が間違っていたからなのか。

 まあ、馴染めるかどうか分からないけれど、仲間が居るという世界を体験してみようかな。

 俺は未知の世界へ踏み込むと決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ