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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
35/166

32 ヌトラポット

 深夜、ぼんやりとテレビを眺めていた。

 そういう認識は持っていたが、ただ目が開いていただけで、俺は眠っていたのかもしれない。

 そんな状態でその番組は始まった。



「はい、始まりました。皆さん寝てますか? なら起きてくださ~い。テレビショッピングの時間ですよー」

 覚えの無い司会者が、深夜だというのにハイテンションで捲し立てる。

「はい、では早速商品の方を紹介していきたいと思います。今回ご紹介する商品はですねー。こちら!! ヌトラポット」

 花瓶? のような形だが、俺の拳が入るくらいに口が大きい。何色もの色が混ざる前に水面下で回り始めた時のような色合いの物がテレビに映る。

「気になりますか? そうですよね~。では、使い方を説明していきましょう。まずは紙とペンをご用意ください。あ、こちらの紙とペンは路上に捨てられた靴跡の付いた物でもかまいませんよ。それに、ペンも根詰まり多発な粗悪品のインクを使っていてもかまいません」

 コメディー風に進行したいのか、単に口が悪いだけなのか分からない司会者だ。

「はい、使い方はとぉ~っても簡単。紙に願いを書いてヌトラポットにポン。これでOK。そうしたら飛躍した夢とあなたは出会えますよ」

 飛躍した夢とは何か? 夢とは、今の自分には実現出来ないから見るものでは無いのか? 

 だから、夢とはそれを夢見た時点で自分から飛躍しているものではないのか?

 考えていると、日中のように意識がはっきりしてきた。

「これでどのような夢を飛躍させるのかはあなた次第。ハーレム? 富豪? いっそ有名人なんていうのも楽しそうですね。さあ、あなた時代で想像を超える体験が出来るヌトラポット、如何ですか? 電話番号はこちら。お値段は一括でもカードでもOK。さあ、ご連絡はお早めに。醒めない夢が手ぐすね引いて待っていますよ~」

 よく分からない、初めての通販番組だった。

 金額もちょっと大きい冷蔵庫に買い替えるくらいの値段で、ポンと出せるような金額では無かった。

 それに、これほどまでに怪しい番組の商品だ。本当に注文して届くのかも怪しい。

 一通り怪しんだ後で、俺は気付けば電話をしていた。

 この時の俺は、酒に酔っていた訳じゃない。ただ、何の変化も無い人生に疲れていただけだ。

 遊びもゆとりも無い生活に嫌気が指していたんだ。

 なけなしの貯金を切り崩すほどの魅力をヌトラポットに感じた訳でも無い。

 けれど、俺は何故か注文していた。



 一週間後、商品が手元に届いた。

 実物を見て見ると、500ミリリットルのペットボトルと同程度の大きさだった。

「ええっと、紙に願いを書けば良いんだったな」

 帰宅直後という事もあり、俺は豪華な食事と書いて入れた。

 その直後、部屋の呼び鈴が鳴った。

「お食事をお届けに上がりましたー」

 頼んでもいない料理が届いた。

 相手は不思議な事に、金額を訊ねると料理の入ったボックスを俺に押し付けて帰ってしまった。

 よく分からない事態に困惑するも、空腹には勝てず、ボックスを開けた。すると金箔が入っていた。

「いや、豪華だけども……」

 これだけを渡されてもただただ困る。仕方が無いので、次は栄養のある物と書いて入れた。

 するとまた来客が。先ほどと同じ配達人だった。

「さあ、お楽しみください」

 そう言って渡すだけ渡して帰っていった。

 意味が分からない。が、先ほどとは違い、栄養のある物が入っているはずだ。

 俺はボックスを開けた。すると錠剤が一粒あるだけ。

「これは、サプリメントか? 確かにマルチビタミンとかあるけども……」

 俺はここでヌトラポットの事を理解した気がした。

 もう腹が減り過ぎて手軽に食えるものなら何でも良いと、俺は卵かけご飯と書いてヌトラポットに入れた。

 三度目の呼び鈴。相手も同じ。もう何も驚かない。

 ボックスを開けると、玉子が三つとホカホカどんぶりご飯。醤油は付いていない。自前のが必要らしい。

 仕方が無いので醤油を準備し、一個目の玉子を割った。

 生卵だ。なら、残りの二つも生卵だろう。

 そう思って、俺は二つ目を割った。半熟卵だった。

(これはどういう事だ? )

 生、半熟となれば、次は茹で卵か。

 今までに無い卵かけご飯に、ちょっと楽しくなっている自分が居た。

 期待に胸膨らませ、俺は三個目を割った。

 中から鶏が出てきた。

 呆気に取られる俺。

 生まれたばかりの鶏は、呆けている俺の足元で、四個目の卵を生んだ。

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