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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
34/166

31 こどく

 蟲毒という話がある。

 毒を持つ生き物を一つの壺に入れ、もっとも強い毒を持つ生き物を生むという呪術との事。

 俺は、世界各地へ飛んでは強い奴と戦い、勝利してきた。

 先程の話と自分をつい重ねてしまう。

 ある時、俺は壁にぶち当たった。

 鍛えても鍛えても手ごたえが無いと思うようになった。

 解決法が見つけられずにいたある日。俺の耳にこんな話が飛び込んできた。

「こどくの部屋っていうのがあるらしい」

「なんだい、それは」

「むずかしい話は分からんが、強くなれるらしい」

「そりゃ、どういう意味での強くなんだ?」

「さっぱりわからん。だがしかし、どうせ強くなるんなら、俺はあっちの方で強くなりたいねぇ」

「一人で強くなってどうするってんだ。相手が居ないなら意味無いだろ」

 という内容だ。

 単なる噂話とも捉えられたが、これはチャンスかもしれないと思った。

 その後、俺はその怪しい部屋の事を探っていき、とある秘密組織のアジトを見つけた。

 が、そのまま行っては何があるか分からない。

 こちらが頼む側なのだから、敵意があると思われてはいけないのだ。

 なので、組織の関係者を探し続けた。

 そのおかげで関係者と接触する事が出来、アジトに招待された。

 如何にもアングラな場所に、俺も警戒を強める。

「ここで本当に強くなれるのか?」

「はい、大丈夫ですよ。部屋から出られたその時には、あなたはこの世で最も強い人間になるでしょう」

「そうか。それは楽しみだ」

 進んで行くと、岩肌に鉄扉という場所に行き当たった。

 どうやら、これが蟲毒の部屋らしい。部屋の中は暗く、広さも分からない。

 最強を追い求める俺には相応しい戦いの場だ。

「腕が鳴るな」

 期待に胸が高鳴る。

「じゃあ行ってくる」

 確かな足取りで蟲毒の部屋に入る。

 中に入るとよく分かる。部屋の中には明かりが無く、己の感覚を研ぎ澄まさなければ攻撃なんて当たりはしないだろう。

 俺が中の様子を窺っていると、唯一の光源だった扉が閉まり始めた。

(そうか。いよいよか)

 恐らく、完全に扉が閉められた瞬間にワッと猛者達が襲い掛かって来るに違いない。

 返り討ちにするその時を思うと、笑みがこぼれた。

 そして、ついに重い扉が完全に閉じられ、純度百の闇が場を支配した。

「さあ、来い。存分に死合おうぞ!!」

 意気込みの一言。しかし、人が動く音も、気配も感じない。

 これはおかしい。そう思った俺は、傍から見たら間抜けだが、手探りで人の存在を探した。

「おい、どうした。何故誰もかかって来ない。俺に挑む危害すらない腑抜けばかりか?」

 煽ってみるも、反応が無い。

 この後も闇雲に探り続け、一つの結論に至った。

(この部屋、俺しか居ない!?)

 まさかのこどく違いに、動揺を隠せない。そして、こんなしょうもない展開になった事に苛立ち、俺は入り口を探した。

 鉄の感触を見つけ、そこが出口だと想い、俺は叫んだ。

「おい、出せ。早くここから出すんだ!!」

 返事は無い。なので、扉を何度攻撃したが、歯が立たない。

「くそっ。騙しやがったな。絶対にここから出てやる!!」

 こうして俺は、この部屋での生活が始まった。



 もう時間の感覚も無い。朝も昼も夜も分からず、自分の上下左右すら曖昧で、立つも座るも違いが分からなくなっていた。

 空腹も今では遠い過去のように思える。

 動く事を止め、ただ無のような時を過ごしていると、突然光が差し込んだ。

 細糸のような明るさが次第に広がり、人一人が抜けられる幅になった時、俺は両手足を使って部屋を出た。

「ああ、外だ。ずっと待ち侘びていた外だ」

 喜びに、涙が流れる。このような一面があった事に、自分でも驚く。

「さあ、復讐だ。俺をこんな目に遭わせた奴らを皆殺しだ!!」

 最後に食事をした日から幾日が過ぎたのかは分からないが、俺は動けていた。

 体を見ると、多少筋肉が萎んでいるが、それでもまだ力で劣るという感覚は無かった。

 関係者に連れられた道を戻る。その間も人の存在を探ったが、気配を感じない。

 既に逃げた後かと考えつつ、俺はアジトの外へ出た。

「こ、これは!?」

 世界は砂地へと変わっていた。人工物は消え失せ、明るい灰みのある黄色い粒だけが舞う世界。

 俺はふと、関係者が言った言葉を思い出した。

 俺は確かに、この世界で最強の人間に、いや、生き物になったようだ。

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