29 ちくわときゅうり
ある日の昼下がり。
「ちょっと聞いてー。最近な、ちくわなのにシャキッとせーって叱られたんよ」
「あれまー。うちと反対の事言われてるわー。うちはな、きゅうりなのに、たまには息抜きせーって言われたんよ」
「お互い、無理言うなって思うよなー。こっちはちくわよ。プルンプルンしてるのが当たり前よな」
「それ言ったら、うちもそうよー。親戚に曲がりきゅうりなんてのがいるけれど、あちらさんだって曲がりなりにもシャキーッとしてるからね」
ここで二人に名案が浮かぶ。
「こっちはシャキ。で、そっちはやわらか」
「うちがフニャーで、おたくはシャキッ」
「「なら、一つにならない?」」
二人の声が重なった。そう、お互いに逆の事を求められているのなら、一つになれば解決すると閃いたのだ。
二人が同じ質問をした。それ即ち、合意の合図。
二人の体が輝きだし、新たな姿に生まれ変わるっ!!
「おお、背筋ピーンなったわー」
「うちも何だか力みが抜けた気がするー」
お互いの問題が解決したと思ったその時。
「お前ら、俺の事を忘れたのかい?」
ニヒルに笑って現れた人物に、二人が色めき立った。
「ま、マヨさん」
「まよくん!?」
それぞれに浅からぬ因縁があるという反応。これに二人はお互いを見た。
「きゅうりさん、マヨさんとお知り合い?」
「ちくわちゃんこそ、まよくんを知っているの?」
お互いの間にヒリつくような空気が漂う。
「おいおい、待てよ。俺達、今はただの知り合いだぜ」
マヨネーズの言葉に、二人は傷付いたような反応を見せた。
「そ、そうよねー。あれは随分の事だものねー……」
「うちも、過ぎた思い出だわー」
しかし、二人にはまだ残る想いがあるらしく、言葉では隠しきれない感情が見え隠れしていた。
そんな二人に近付くマヨネーズ。急に表れただけでも驚いているのに、どうしたのかと、二人は動揺していた。
「お二人さん、面白い事になってるじゃねぇか。俺も混ぜちゃくれねぇか?」
二人の心が、トゥクンとときめいた。
「「その言葉、ずっと待ってた!!」」
抱きしめ合う三人。
今、三つの道は一つになった。