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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
3/166

3 ホワイトバード ブラックボード

「皆さんこんにちは。私は生物学者の学者のパンチー・ハクイです。私は今、とても珍しい鳥が生息している島に来ています。その名はHBアイランド。恐らく、これを見ている皆さんには余りなじみが無いかもしれませんね。ですが、ホワイトボードと言えば、少し反応が変わるのではないでしょうか?」

 今、私はこの島の紹介動画の出演者となっている。島民達に囲まれ、カメラに向かって話しているのだ。

 学会やテレビ出演とは違う緊張の中で、私は今話をしている。

 事の始まりまで時を遡ろう。



 私がこのHBアイランドに来たのは、特殊な鳥の生息する地域だと聞いての事だった。

 この島の気候は一年通して常夏と言えるほどに温かい。

 しかし、観光地化はされていない。リゾートで客を呼べるほどの快適な気温と景色が広がているというのにだ。

 島ではその気候を生かした熱帯果実の栽培をしているのかと思ったら、そうでも無い。

 鳥の情報を得て、私が調べて唯一でた情報は、ホワイトボードだった。

 あの企業の会議で使われたり、研究者達の話し合いで使われるあれだ。

 島では林業が盛んだという訳では無い。謎は深まるばかりだ。

 そのような島で、どのような経緯で進化していったのか、私には非常に興味があった。

 国から飛行機を乗り継ぎ、漸くやって来た謎を秘めたHBアイランド。

 手続きを済ませ、空港を出る。そこには、特に何も無い自然が広がっていた。

「道の整備はされているが、看板も何も無いな……」

 タクシー乗り場も無い。自家用車だろうか。車が一台あるだけで、完全に余所者を排除しているように感じられた。

  足が無い中で、常夏の島を歩くのは危険だと思った。なので、唯一の頼りになりそうな車に近付くことにした。カラフルなタイヤの車。持ち主が変な奴で無い事を祈りつつ、私は近付いた。

 私が近付いていくと、運転席のドアが開いた。

「おい、馬鹿。頭を隠せっ!!」

 健康的に日に焼けた初老の男が、帽子を抑えつつ、急いで私の元にやって来た。

 ピュヒョロロロー。

 妙な音が何処からか聞こえてきた。

 初老の男と、その音に驚いていると、男が私に覆いかぶさった。

「な、何をする!?」

 抵抗すると、私のすぐそばを先程の音が、風きり音と共に通り過ぎた。

「おい、あんた。これ被りな」

 男は、何故か帽子を私に被せた。

「貸し一つだな」

 私には何が何だか分からなかったが、男は言った。

「すまないが、説明をしてもらえないだろうか。何が貸し一つなんだ?」

 先程の音と、通り過ぎたように感じた音の正体が分かるはずと、私は尋ねた。

 すると男は、右手の親指と人差し指と中指を擦り合わせ始めた。

「すまない。その仕草が何を意味しているのかは理解しているつもりだが、意味合いが違うといけないから教えてくれないだろうか?」

 そう言うと男は、やる気の無い感じで頭を掻いた。

「この島での報酬を渡せと言う仕草だ」

 詰まりはチップという訳だ。相場は分からないが、貴重な情報源だ。逃げられる訳にはいかない。

 私は、金額の一番小さい紙幣を彼に渡した。

 男は、特に何も言わずにそれを掴んだ。

「今のはホワイトバードだ。奴らにはとある習性があって、あんたに反応したという訳だ」

「な、何だって!? それじゃあ、今のがホワイトバードだったのか。ああ、残念だ。視認すら出来ていなかった」

 私に島の存在を教えてくれた匿名の人物の手紙には、姿形についての情報はあったのだが、姿を収めた写真は一枚も無かったのだ。

「おいおい、随分とのんきな事を言っているじゃないか」

 私に意味深な事を言いつつ、男は陽気に笑った。

「のんき? どういう意味だ?」

 私が尋ねると、男はまた三つ指を擦り合わせた。

(こいつ、かなりがめついな)

 私の眉間が一瞬狭まる。しかし、周囲に人の姿は無く、私が求めている情報の手がかりを持っているのはこの男だけ。私の財布の風通しが多少良くなり、上着が一枚欲しくなろうとも、それに耐えるしかなかった。

「分かった、分かった。出すから話を聞かせてくれ」

 先ほどと同じ金額を渡す。同じ金額だから渋るかと思ったが、男は上機嫌で受け取った。

「奴ら、黒い物には目が無いんだ」

「黒いも物……」

 私は、自身の髪の毛が狙われたのだと分かった。

「ところで、他所から来たようだが、何が目的なんだ?」

 島民以外の存在を警戒しているようで、男に尋ねられた。

「私は、生物学者をしている。ここへは、珍しい生物が居るという情報を貰ったのでやって来たんだ」

「珍しい生物だって?」

 地元民からすると、島での事は全てが生まれた時からある当たり前の存在。だから、このような事を言ってもピンと来ないのだろう。

「ホワイトバードの事だ」

「そうか、そうか。なるほど、分かったぞ。ホワイトバードの事か」

 男は妙に大きなリアクションで反応していた。

 私は、またたかられるのではと思いつつも、尋ねた。

「あなたはホワイトバードに詳しい人を知らないだろうか?」

「知っているぞ。よし、島を案内してやろう。車に乗りな」

 驚いた事に、今度は何も要求してこなかった。

 車に乗ると、私は島の事について話を聞く事にした。

「ここに来る前に調べたのだが、この島は何で成り立っているんだ?」

「そりゃあ、ホワイトボードさ」

 調べた通りの情報が出てきた。

「確かに一定数の需要はあるだろうが、それだけで島が潤うほどの利益は出ないんじゃないか?」

「そうだな。皆そう思うんだよ」

 ここは違うと言いたげな反応だった。

「今向かっているのは、その疑問を解決してくれる場所だ」

 男が言った。車で走る事五分くらい。渋滞とは無縁で、私有地のように制限の無い速度で走ったため、男の言う目的地にはすぐに到着した。

 建物の周りは柵で囲まれていて、何かの逃亡防止がされているようだった。

「ここがホワイトボードの?」

「ああ。それに、ホワイトバードについてもよく分かる」

 男はそう言って車から下り、敷地の中へと入っていった。

 少し待っていると、男は人を連れて出てきた。

 この場所の管理者だろうか? 相手は男と同年代くらいのようだ。何やら会話をしつつ、私の方に時折二人で視線を向けていた。

 そのやり取りを終えると、男は戻って来て私に言った。

「中に入れるぞ。入場料が必要だからな」

 まあ、部外者が入る訳だから、それは仕方が無いだろうと、私に抵抗は無かった。

「始めまして。今日はよろしくお願いします」

 挨拶をすると、建物の管理者が三つ指を擦っていた。

(ここでは金を貰う側の当たり前の仕草なのだろうか?)

「入場料はいくらだ?」

「一番安い札一枚だ」

 もっとぼったくるのかと思ったのだが、意外と価格は良心的だった。と、思ったのはここまで。

 金を渡しても、まだ相手は三つ指を擦り続けていた。

「案内が必要だろう?」

 どうやら、入場料と案内費は別ということらしい。

 腹立たしいが、これも仕方が無いと、私は入場料と同じ金額を出した。

 すると、文句も言わずに管理者は受け取り、私に背を向けた。

「さあ、案内を始めようか」

 相手の言葉に従い、三人で施設内に入った。

 中に入ってからの説明は以外にもまともだった。

 とは言っても、私でも調べられた島の成り立ちから始まったので、この部分だけで言えば案内役分の価値は無い。

 真新しい情報も無く、ほぼ聞き流していると、遂にこの島の謎の特産ホワイトボードについて話が始まった。

「あなた、どうしてこの島のホワイトボードに需要があると思う?」

「これまでの話を聞いただけでは全く理解出来ない。よほどここのホワイトボードは特殊なのか?」

「じゃあ、作り方を教えてあげよう」

 管理者は、嫌な笑みを浮かべた。

 通された部屋を見て、奇妙さに私は驚いた。

 全てが黒く塗られた板が等間隔で設置されていたのだ。

「ここがホワイトボードの製造現場? 人も機械も無いじゃないか」

 騙されたのではと、私は管理者を見た。

「人の手なんて、一人居れば問題無いのさ」

「ああ、そういう事だ」

 管理者と男が下卑た笑みを浮かべていた。

「あんたら、一体何をやっているんだ?」

 雰囲気に身の危険を感じ、この場を出ようとすると、背後でとても大きな音が聞こえてきた。

「い、今のは!?」

 振り返ると、奥の方の板が真っ白く染められていた。

「あれが木島特産のホワイトボードのだよ」

 管理者が言う。ホワイトボードは、塗料の垂れが無いほど一瞬で、均一に一面が塗られているようだ。

 しかし、先程の大きな音が気になる。

「さあ、次が始まるよ」

 管理者が言うので、今度は聞き洩らさないよう、見逃さないように、板の方を向いた。

 すると微かに、最近聞いた独特の音が聞こえた。

 その直後に、高速で何かが飛んできた。

 大きな音と共に板に衝突し、ずり落ちるそれを見て、私は言葉を失った。

 動く事すら出来ずにいた私に対し、男は言う。

「板を見て見ろよ。あれがこの島特産のホワイトボードだぜ」

 塗りムラの無い、綺麗なホワイトが広がる板。

「奴らの体液は不思議で、真っ白なんだ。ペンの走りも良く、引っかかりも無い。滲む事も無いから、それはもう、素晴らしい出来なんだぜ」

 豪快に笑う男。下を見れば、ホワイトバードが落ちていた。

「こ、こんな事が許されて良いと思っているのか?」

「需要があるから、この島は成り立っているんだぜ」

 男がそう言った直後、私は全身が痺れ、気を失ってしまった。



 そして、目覚めた私は、原稿を手渡され、ホワイトボードの素晴らしさについて説明をする事になった。

 カメラの横には、家族のリアルタイムの映像が映っていた。

 家族は今、私が遠くの島で特産品の説明をする動画を撮っていると思い込んでいる。

 しかし、実際は違う。この通信を可能にしたのは、この島の人間が私の家族の元へ向かったからだ。

 今、映像には映っていないが、島の人間が私の家族を狙っているのだ。

「皆さんが持っているホワイトボード、買い替えの時期に来ていませんか? もし、丁度変え時なんだという方がいらしたら、是非ともこのホワイトボードの購入を健闘されてみてはいかがでしょう。驚きの城郷手触りの良さが、もう書き手を離しませんよ」

 紹介動画の最後をそう締め括り、私は役目を終えた。

「さあ、もう良いだろう? 私達を解放してくれ」

 私は男に訴えた。

 すると男は、三つ指を擦り合わせた。

「こ、こんな時にかっ」

 出演料が必要なのはこちらだというのに、男は払えと要求してきた。と、私は思った。

「誰が払うか、そんな金」

 私が怒りと共に言葉をぶつけると、男は指を鳴らした。すると、私がスタジオだと思っていた空間の天井や壁が取り外された。

 男は、まだ指を擦りつつ、私に言った。

「この島の本当の特産を体験するか?」

 これが何を意味しているのか、私は理解出来なかった。

 突っぱねてやる事も出来たが、その選択を取る前に空から音が聞こえてきた。

 ピュヒョロロロー。

 すぐに全てが繋がった。

「持っていけっ!!」

 私は、財布の中身を全て出した。

「足りないな」

 男はそう言うと、家族が映る画面の方を向いた。

 そして、指をまだ擦り続けていた。

 風きり音が近付いていた。

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