25 ピンポンダッシュ ダブルターボ 前編
戦いは終わり、安寧な日々を過ごしていた利夫。
年寄り臭い話し方をする少女和江に懐かれ、共にピコピコをする日々を送っていたが、彼の生活に再び魔の手が迫った。
ピピンンポポンン
日中、静かな昼下がりに合わぬ不思議な音。
これが新たな始まりだった。
利夫はピンポンが壊れたのかと思った。おかしくなったチャイムの音も老朽化のせいだと、この時は思っていた。
しかし、外へ出ても誰も居ない。逃げる足音も、人の気配も姿も無い。
変だ、おかしい。そう思いつつ、この日は部屋に戻る利夫。
だが、これが繰り返されるようになった。
流石に三度も続けば、これはおかしいと監視カメラを確認すると、利夫は驚愕した。
想定外の事態。自分がこれに立ち向かわなければならないのかと、不安が募る。
しかし、怖気づいて逃げ出しては、相手の思う壺。
利夫は自身を再び鍛える決意をした。
その日の午後、和江が今日もピコピコをしにやってきた。そこで利夫は彼女に話した。
「ごめんね。暫く一緒に遊べなくなったよ」
「しばらく? 何か困り事なのじゃ?」
利夫は、正直に話しても幼い彼女が怖がるだけだと思い、遠くの親戚の所へ行かなくちゃいけないとだけ伝えた。
「寂しくなるのじゃ。戻ってきたらまた相手をして欲しいのじゃ」
沈む表情の和江に、利夫は再会の約束としてピコピコを貸してあげた。
「次会う時まで預けておくね」
「絶対。絶対に返すのじゃ」
二人は見つめ合い、約束だと強く頷いた。
利夫の訓練は一か月にも及んだ。
その間、利夫は家の中で自身の限界を越えるために厳しい特訓を繰り返した。
そして、遂に再びの決戦の日が来た。
ピピンンポポンン
静かな昼下がりに、奴らはやって来た。
二刀流の構えで飛び出す利夫。
「仲間を連れて戻って来やがったな。また潰してやるぜ。ヒャッハァァァァー」
敵はピンポン玉二個。奴らは一個では駄目だと数を増やして戻って来たのだ。
住宅地の壁を利用し、奴らは反射をしようして利夫に襲い掛かる。
「お前達の攻撃なんて見切ってるんだよぉっ」
その言葉通り、利夫はピンポン玉の体当たりに動じる事は無い。一個ずつの攻撃など、利夫の脅威にはなりはしなかったのだ。
「さあ、二刀流の真骨頂を見せてやる」
迫るピンポン玉をラケットで挟みこもうとする利夫。
「なっ!?」
しっかりと挟み込めるはずだったが、利夫はピンポン玉の動線から逃げた。
この判断はとても正しかった。
第一のピンポン玉に重なるように、第二のピンポン玉が迫っていたのだ。そして、第二のピンポン玉の方が速度が在り、第一のピンポン玉を突いた。すると、今までとは違う加速が加わり、コンクリートの地面が少し凹んだ。
コンクリートが凹むという事は、人間も凹むという事。奴らも数以外の対策を考えて戻って来たのだと自覚する利夫。
ラケットで立ち向かう事が出来るのか。不安に思う利夫。
ピンポン玉達は、この玉突きに効果ありと見ると、連続で仕掛けてくるようになった。
恐らく、プロの動体視力でも見切るのは難しい速度の連続に、一般人の利夫が対処し切れるはずも無く、追い詰められていく。
遂には、凹んだコンクリートに足を取られ、転んでしまった。
そこを狙うピンポン玉の玉突き。
避ける余裕も無く、利夫の脳裏に敗北の二文字が浮かぶ。
(南無三ッ!!)