24 憧れのプル尻
遥か未来では、美尻と言えばプルンとしたお尻の事を指していた。
この物語の主人公ビップも、そんなお尻を手に入れたいと夢見る女性の一人だった。
「博士ぇ。私、もう駄目。お尻がプルれない」
プルれない。それは、プルンプルンにならないという言葉。
つまり、ビップは自身にお尻に限界を感じていた。
「ビップ君。君は本当に最後まで自分を追い込んだのかな?」
諦めかけている彼女を更に追い込むような事を言うのは、この時代の三大頭脳の一つと言われているヘッドライト博士。
彼はあらゆる分野に精通し、その類まれなる頭脳と閃きで、成熟し切ったと思われた未来の時代でも、新発見を連発している男だった。
「もう駄目。やり切ったよー。ジム、サウナ、エステ。思いつくものは大体やったけど、理想に近付けた気がしないの」
自分がどれほど努力したのかを語る彼女。しかし、彼女は美尻の為の活動を大体一回やって投げている。唯一続いたエステも三回が限度だった。
が、それを言わずに全力を出したと言われては、博士だって見抜けない。
「ふむ。では、一つ良い物を紹介しよう。これだ」
博士が冷蔵庫から取り出したのは、クイッと飲み干せと言わんばかりのボトルに入った液体だった。
「ビップ君。これはだね――」
説明しようとした博士の手から、ボトルを奪うビップ。
「博士、ありがとね。これで私もプル尻よ」
親指だけで蓋を吹き飛ばし、腰に手を当てるビップ。
「ああ、駄目だ。いけない」
しかし、手遅れだった。彼女が「え? 何が?」と博士に訊ねた時には、既に全てを飲み干してしまっていたから。
「ああ。ああ……。何と良い事だ」
両頬に手を当て、そのまま下げていく博士。
「どうしたの? 博士。これ、飲むやつでしょ?」
「そうだが。そうなのだがっ。一気に飲んではいけなかったんだ」
「の、飲んだらどうなるの?」
「それはだな……」
博士は、とても言い難いと、ビップに背を向けた。しかし、言わなければならないと、彼女に向き合った。
「何と言う事だ。説明する時間も無かったか……」
博士は、重い足取りでビップへと近付いた。
「人の話を聞かないのが、君の悪い所だな」
そう言って、ビップをすくい上げる。
「いや、今回は違うな。君は憧れの美尻を手に入れたのだから」
博士は、落とさぬように抱えて歩き出した。
彼女が飲んだのは、確かにこの時代の美尻を手に入れる事が出来る飲み物だった。
その名も尻化ゲル。ゼリー状で、喉詰まりの可能性があるため、注意が必要な飲み物。
用量を間違えると、本人がゲル化した尻になってしまうという問題があった。
彼女は、自分が望んだ通り、プル尻を手に入れた。
その感想を聞いてみたいと博士は思ったが、それは無理だった。
彼女は今、プルプル揺れる事しか出来ないのだから……。