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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
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19 若年寄× 年寄若〇

 ある日、目覚めると和江は若返っていた。

体が軽く、長年連れ添った節々の痛みが無い朝の事。

 もう何十年も縁遠かった快調さを不思議に思い、姿見の前に立った和江は驚いた。

「こ、こりゃあ、若すぎるのじゃ!!」

 和江が驚くのも仕方が無い。何せ、ボロボロになった白黒写真の中に辛うじて残されていた姿と同じ姿をしていたのだから。

「尋常小学校の頃じゃから、一年生? いや、もう少し上じゃな」

 写真を引っ張り出し、現在と見比べつつ、記憶を掘り起こす和江。

「しかし、若返るのならもう少し上にして欲しかったのぉ」

 今の容姿では、一人で動くには不便過ぎた。出来るなら、一人で動く事に枷の無い、それでいて大人の中に居てもあまり問題の無い年齢が良かったと思う和江。

 だが、原因が分からないのだから、そんな要求をしても無意味。戻る方法も分からないので、仕方無く生活をする事にした。

 まあ、身長が足りないなどの問題は多く出たが、それでも何をするにも痛みや重さを感じないかつての感覚は嬉しいものだった。

 そうこうしていると時刻を見れば、子どもが外に居ても何ら問題の無い時間だった。

「せっかくじゃ。童と遊ぶのじゃ」

 近所の公園で遊ぶ子供の姿は既に確認済み。身元が分からずとも、入れてと言えば輪に入れるのが子供社会の良い所。

 公園へ向かうと、子供達が遊んでいた。今日は鬼ごっこをしているようだ。

 和江が参加したいというと、子供達は見た事の無い子の姿に驚いた様子だったが、すぐに受け入れた。

(時代としてはかなり古いおべべじゃが、問題無さそうで良かったのじゃ)

 キャッキャと童心に返り、遊ぶ和江。しかし、すぐに問題が発覚した。

(ワシは、ワシは何をしとるんじゃ!?)

 老齢から児童への遡りに、精神が追い付けていなかった。

 実年齢で言えば、孫、曾孫の相手をしているようなもの。同い年として遊んでいるつもりでも、すぐに大人の心が冷静に自分を見てしまう。

 そう。いい歳をして、何をはしゃいでいるのかと。

 初日は何とか乗り越えた和江だが、翌日以降も同じ事は出来ないと思った。

 やはり、もう少し歳を重ねていた方が良かったと思う和江。

 何とかして戻る方法は無いかと肩を落とし、歩いていると、普段なら通り過ぎる民家のとある一軒で、玄関先で何やら仕事をしている男が居た。

(この家は確か……)

 まだ体が動いていた頃の和江は、子供達の通学を見守るボランティアをしていた。

 なので、この辺りに住んで居た子供の事は覚えていた。

(そうじゃ、利夫じゃ)

 現在、何をしているかはトンと聞かなかったが、同居していたらしい。

 自分もあまり近所づきあいをしなくなったので、情報が入って来なかった。

 和江は、久しぶりに見た利夫が成長したのを嬉しく思い、つい声をかけた。

「何してるのじゃ?」

 声をかけてからやらかしたと、和江は思った。利夫からは一切面識の無い子供だ。昨今は何かと面倒が多いので、あしらわれてもおかしくない。

「んん? 防犯カメラを付けているんだよ」

 不審がりつつ振り借り、相手が子供だと分かると、利夫は声色を和らげて話した。

「ついにこの辺りも物騒になったのじゃ」

 驚く和江に、利夫は言った。

「そうじゃないよ。最近、家の呼び鈴に悪戯をするのが居てね。それで付けているんだ」

「それは不届き者じゃな。許せんのじゃ」

「はは、そうだね。もし変な人を見かけたら、教えてくれるかい?」

 和江は喜んだ。初対面の自分と普通に会話をして、次も会話をするきっかけを作ってくれたから。

「なら、必ず遊びに来るのじゃ。お土産も持ってくるからな」

「え? 遊びに? いや、それは――」

 戸惑う利夫だったが、和江は聞いていない。和江にとっては、茶飲み友達が出来たようなものだったから。

 こうして和江は利夫と交流をするようになった。

 そして、和江は、利夫の家にあったピコピコにドはまりした。

 この奇妙な出会いと交流は、近く迫る強敵達との戦いにおいて、大きな意味を持つ事となった。

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