157 ウインナー
友人から呼び出された。
昼下がりの公園に、陰の気を垂れ流す男が一人。
友人だった。
「どうした?」
近付き、声をかける。こちらを向いたその顔は酷くやつれ、ただ事では無い事態の中に居ると分かった。
「付いて来てくれ」
すっかり弱った声と共に立ち上がる友人。
何処へ行こうというのか。弱っているというのに、足取りはしっかりしていて迷いも無い。
しかし、道中での会話は無く、いくら尋ねても答えず、説明も無い。
「見ててくれ」
やっと口を開き、足を止めたその場所。そこはスーパーの自動ドアの前だった。
徐に店へと歩き出す友人。
当然、自動ドアが反応する。
ウィィィィィィン
突然のけたたましい音に、体を背けた。驚きの余りに塞いだ耳。
すぐに音が消え、静かになり、今のは何かと友人の方を見た。
「なー?」とでも言いたげな友人。
いや、分からない。何時の間にあんな重機のような音の真似が出来るようになったのか。
「今の、自分で音出したんだろ?」
訊ねると、友人はドアから離れた。そして、自動ドアが閉まったのを確認すると、また近付いた。
ウィィィィィィン
再びのけたたましい音。ただ、一度目と違ったのは、友人がこちらを向いていた事。
それで分かった。友人は口を動かしていない。
音真似ならやりようでどうにかなると思うが、友人が腹話術を出来るような器用な人間じゃ無い事を知っている。
だから、彼がどのような状況に居るのかを理解することが出来た。
「よし、病院に行こう。頭の」
この提案に、友人は渋い顔をした。
「待ってくれ。一人だけの問題じゃない。二人ともおかしくなっている可能性がある。二人で行けば、共通点や違いが分かるはずだろ?」
そう言って説得すると、友人はまだ渋い表情のままだったが、理解してくれた。
近場の病院を調べ、早速向かった。
そこのドアは自動ドアで、こちらの情報を理解してもらうには丁度良いと思った。
友人を先頭に、ドアに近づく。
すると、突然病院がびょぉぉぉぉぉんと、バネ仕掛けで飛び出す玩具のような勢いで飛び上がった。
突然の事態に唖然とする他無い。
どうする事も出来ず、ただ顛末を見ていたら、病院はそのまま元あった場所へとインしていた。
振り返り、こちらを見てくる友人。
(止めろ。そんな目でこっちを見るな)
心の声で訴える。
思いは届いているだろうが、なー? っという表情のまま、こちらを見つめていた。