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154 ボタン道路
それはある日の通勤時に現れた。
「これは……なんだ?」
驚きで動きを止めている自分とは反対に、楽しそうにしている子ども達。
何時もは素通りする道路も、今日ばかりは足を止め、夢中にならざるを得ないといった感じだ。
「よーし、おれはこれを押すぜ」
「ならぼくはこの青いボタンだ」
「わたしは赤いボタンね」
躊躇いも無く押していく子ども達。
一体誰が、何のためにこのような事をしたのか分からないが、カメラを探さずにはいられない。しかし、周囲を見回してもそれらしい人影や物は見つからない。
あればやりたい。出ていれば押してみたい。
前には、様々な形のボタンに夢中の子ども達。今ここで、大の大人が湧き出てきた衝動を抑え込む必要は無いのだ。
あれだけ滅茶苦茶に子ども達がボタンを押していても、周囲ではなんら騒ぎになっていないのだから。
(よーし。俺はこの自爆ボタンっぽいのを押すぜ)
ポチッとなと、ボタンを踏んだ。
はじけ飛ぶ自分。
魂が空へと浮かび上がった。
遠退く大地を広い空から見下ろしていると、そこかしこで騒ぎが起こっていた。