145 手の鳴る方へ
「もう一回。もう一回」
巨人がそう繰り返す。奴らはこれが狙いだったとでもいうのだろうか。
自身の手を打ち鳴らし、早く来るんだと急がせる。
今まで動かなかった体も、巨人の施しによって新しい移動手段を手に入れた。
しかし、まだ完璧に習得したとは言えない。
だのに、巨人は言う。
「頑張って。ほら、がんばって」
踏ん張りの利かない腕と踏みしめられない両足で、新しい移動手段を使う事が巨人にとって無上の喜びとなるのだろう。
見れば、もう一体の巨人が謎の四角い物を構え続けている。
あれに害は無い。もう何度もあれをこちらに向けられていたから分かる。
あれをこちらに向ける事で、自分の何を得ているというのか。
とにかくあれ越しに巨人達は自分を見る事が多い。
「ほら、この子も頑張れって応援しているよ」
ぬなっ。今度は最愛の友まで引っ張り出してきた。
友の両手を掴み、巨人が先程までそうしていたように、何も聞こえないが手を叩いている。
友を、友を助けなければ。
友情が自分に一歩、二歩と進む力を与えてくれた。
そうして友の下に辿り着くと、巨人達がはしゃいでいた。
「よくやったな。上手いぞ」
「はいはい上手だったわよ。えらいえらい」
「流石、我が子だよな」
「ええ、そうね」
巨人達はご満悦のようだ。
この移動方法を得た後、巨人達は幾度となく手を鳴らした。
それは何時しか、この移動方法が煩わしくなるほどに繰り返された。
もっと効率的な手段はないものか。考えた時、その答えがずっと目の前に在った事に気付いた。
この日、自分は初めて大地に立った。