141 血戦
久々の実家は落ち着くなーって思ってたんだわ。
両親が亡くなってからは、家の管理は妹に任せっきり。
俺はもう独り立ちしてたもんだから、親の財産なんてのは全部妹にくれてやった。
そんなんで、里帰りなんてする理由も特に無く、ロクに連絡も取らないままだったんだが、妹から連絡が来た。
どうやら何か伝えたい事があるらしい。
今、妹は薪を取りに家の裏に回っている。
「お待たせ、兄さん」
「薪なら取りに行ったのに」
「久々に帰ってきたんだから、ゆっくりしててよ」
先ほどもしたやりとり。
「すまないな。ところで、そろそろ手紙をよこした理由を教えてくれよ」
囲炉裏に火が点いたのだし、落ち着いて話せる頃合いだろうと切り出した。
「実はね、兄さん。私、結婚するんだ」
「へぇ、やったじゃないか。おめでとう」
兄より先に結婚する妹に、素直に祝いの言葉を送った。女手一つでの生活に心配しない日は無かったのだが、これでその不安も一つ減る。
そう。妹が次の言葉を言うまでは……。
「O型の人とね」
次に拍手でもしようかとしたその時に口にした妹の言葉に、手が止まる。
「O型……だって?」
祝いの空気から一変して、俺は鋭く妹を睨みつけた。
「ええ、O型よ。聞き間違いでも、言い間違いでも無いわ」
はっきりと口に出し、断言する妹。
「お、お前ぇ……」
自身の歯ぎしりの音がうるさい。人に対してここまで敵意をむき出しにした事は無かった。家族に対してなら尚更無い。
「おっと、兄さん。頭が高いわよ」
自分が上位の存在なのだと、圧をかけてくる妹。
妹は言葉を続ける。
「私は更なる濃いO型の血族を生むわ。彼も、代々O型を継いできた一族の末裔よ。兄さんは、一人寂しく、止まったO型の血脈の末端に名を残す事ね」
これは、一人の血の話ではない。何百、何千の歴史の果てに濃縮され、圧縮された二人分のO型の血液が更に濃くなるという事。それは、O型のエリートが生まれるということだ。
圧倒的なOの血の前に、俺はなす術もなくひれ伏す他無いのか……。
俺の長い戦いの旅が始まる……。
――とあるファミレスにて
「どうですか、新作。熱い展開とバトルが待ったなしって感じしません?」
「しません? って、岩清水先生さぁ……」
おやおや、何だか担当さんがもやった顔をしているぞ。
「これ、なんでO型が結婚するってだけで殺伐とした感じになってるの? なんか、O型の血が濃くなると不思議な力が強くなって、強敵を倒せるようになるとかなの?」
「いえ、まったく。ただの普通に新しい家庭が出来て、より濃いO型の子どもが生まれるだけですよ。それに、主人公の男が幾多の困難に出会いながら婚活する話ですし」
「あー、ダメダメ。問題過ぎます」
「ええー、何でですか?」
「なんか、少しでも現実に居そうな設定のキャラを出すと炎上しそう。というか、する」
「被りやしませんって。猛毒を吐く女とか、千の針で攻める女とか。意識を奪う女とか、現実じゃいないのばっかり出す予定なんで」
「居るから。今の例だけでも“言葉”って単語を付けるだけで居るから。それに何でそもそもO型同士が結婚しちゃ駄目なのさ」
「え、別に意味はありませんよ。そんな細かい事言ってたら、子ども向け番組作れませんよ? 夕方五時半からの番組作れませんよっ!!」
「いや、そんな企画立ってませんし」
「立たせましょうよ。これで」
「一日の終わりになんてもの見せようとしてるんだ、あんたは」
「もー、そんなに駄目ですか? あ、分かった。O型が主役だから気に入らないんですね? じゃあ、担当さんの血液型に設定変えますから教えてくださいよ」
「え、別にいいですよ。自分、Rhマイナス型なんで」
「何それ、かっけぇ。まさか、ABCO型以外の血液型があるだなんて……」
「ちょ、待った。Cなんて無いから」
「あー、ABときたらCって言いたくなるじゃないですか。おまけですよ。おまけ」
「おまけで新しい型作られたら血祭にあげられるから」
「つまりは担がれた神輿になるって事ですね。アニメ化待ったなし!!」
「いや、漫画家人生終了待ったなしだとおも――」
熱く盛り上がっていたら、店員さんが隣りに立っていました。
「あの~、お客様。店内ではお静かにお願いします」
叱られてしまいました。
仕方が無いので店を出て、今日はお開きです。
「あ、担当さん。結局何型だったんですか?」
「プライベートな質問はちょっと……」
ガチなトーンで拒否られてしまった。
「じゃあ、今回の作品はどうですかね?」
「あ、電話……。すみません」
ガチ気味で濁されてしまいました。