140 タンダップ
昔々。それはもう昔の話で、未来人がこの時代の人に「奇怪な機械」と言っても、機械が分からず、笑い所が分からない時代のお話。
その少年は過去の記憶があると、何時の頃からか、吹聴して回っていた。
大人達は、少年が話す過去のその土地の話を聞いても、真偽のほどが分からない。
けれども少年は昔のここはああだった、こうだったと、繰り返す。
嘘か本当かの話も分からない事を聞かされ続ける側は疲れてしまった。
そして、頭の可哀想な子として見るようになった。
親でさえも、辟易していたのだから、周囲の者達はよく耐えたと言える。
ある日、土地を離れ、病の治療を受けていた一番の長寿様が帰ってきた。
大人達は、長寿様なら少年の話を理解出来るだろうと、ついに真偽が分かる時が来たと、密かに胸を高鳴らせていた。
少年は、何時ものように過去の土地の話を長寿様に語った。
一頻り語り終えた少年。付き添っていた者は、長寿様にそうだったのかと尋ねた。
すると長寿様は言う。
「す、すばらしい」
長寿様が声を震わせ、感動していた。今では誰も分からない当時の話を聞けて、長寿様が喜んでいるのだろうと、付き添い者は思った。
だが、違った。
「素晴らしい。何一つ合っていないというのに、まるで本当にその時代がそうであったかのように語られていた。頭の中で話に聞いた光景が浮かぶほどだった」
妙な所を絶賛する長寿様。
彼らが暮らすその土地は、長寿様が十よりも幼い歳の頃に見つけた新天地。
茂みに覆われ、人がそれよりも昔に居た痕跡など無い土地だった。
さて、嘘だと言われた少年のその後についてだ。
長寿様が彼の話しぶりを偉く評価した事を始まりとし、様々な交渉の場で活躍する事となる。
長寿様の評価は正しかった。彼のおかげで土地は集落から町へ。町から都市へと発展していったのだ。
彼が語れば、彼の舌が立つ。そんな特徴から、口の達者な者の事をタンダップと、その土地では呼ぶようになったとか。