137 生もう布団
俺はしがないニートだ。
親からは仕事をせっつかれ、日がな一日ネットの海を泳いでいた。
何を言いたいかというと、何もやる気が出ない。
時間という生まれながらに平等に減っていくものを唯々浪費していく日々。
こんなんじゃ駄目だという燃え始めた種火は、外に出ないとという消化性の高い重い液体で消えていく。
外に出る面倒臭さで消された火元からは、しばらく火が出る事は無い。俺の心は、そこかしこでこの液体が撒かれているため、中々火元となる場所がないのだ。
そんなある日、一人のせぇるすまんがやって来た。
「はーじめましてー。あてくし、瓜鯛 活手というしーがないせぇるすまんをしている者です。はい」
独特な喋り口調の男が家にやって来た。会話を等に忘れたこの口だったが、相手の話し方に興味が湧いて、浪費中の暇つぶしにと、相手をする事にした。
「何を売りに?」
「えーえー、その前にお招きあーりがとうございます。ではお手間は取らせませんが商品をお手に取ってもらいたいのでご紹介いたしましょう」
と、大きな筒を俺に前に出すせぇるすまん。
「こちら、布団でございます。ただのお布団ではごーざいませんよ。こちら、羽毛の生もう布団でございます」
「ん? どゆこと?」
「こちらをご使用いただきますと新たに生まれるのです」
「ん? 何が?」
「何かがでございます」
要領が掴めない。なるほど、分かった。これは詐欺だな。
ここは社会的正義に駆られよう。日頃社会様の足に縋り、すねかじりをしている俺の存在を広く知らしめる良い機会だ。
クーリングオフという制度でしこたま使った後に両断してやろう。
「分かった。一つ買ってみる」
「あーりがとうございまーす」
お買い上げして、早速使ってみた。
手触り、肌ざわりは中々上物。重さを程よく、高級羽毛布団とはこういうものかと、違いなど比べた事も無いのだけれど、そう思っていた。
「よし、早速良い夢見てやるぜ」
ばっさー、布団を広げ、俺は眠った。スリーカウントなんて必要無かった。
一か月が経った。
今日はおかんが珍しくしつこくうるさくドアを叩いていた。
何やら、お金がどうの、支払いがどうのと、繰り返されていた。
何かを忘れているような気がするけれど、どうでもいい気分だった。
今の俺は、何にも気にならなくなっている。
そうだ。どうやら、この布団で寝た事によって、物事に頓着しない自分が生まれたみたいだ。