133 トッテモポール
俺の友人であるポールが海を越えて越してきた。
俺も今まではチャットでしかやり取りが出来ていなかったのだけれど、引っ越し先の住所を聞いて、これは会えると話したら、是非とも会いたいと言ってきた。
もちろん俺も友人と出会う事に異論は無いからと、会う約束をした。
それが今日。
何の変哲もない普通のマンションにポールが居る。
文字や音声でのやり取りは何度もしてきたけれど、直接となると妙に緊張してくる。
上手く話せるだろうか? 普段とは違う印象を持たれてしまうんじゃないだろうか?
そんな不安を胸に、彼の部屋のチャイムを押した。
「オオ、イワシミーズ」
独特な癖のある日本語。音声会話の時に何度も聞いたポールの声だった。
「会いたかったよ、ポール」
俺はオーバーリアクションで両手を広げてから握手を求めつつ部屋に入った。
「アイタカッタヨ、イワシミーズ」
「コノトキヲマッテマシター」
上に下にと複数の声。
「!?」
声のした方を見ると、下駄箱の扉にポールの声が。それだけじゃない。上を見たら電球にもポールの顔が。
「ひぃっ!!」
驚き、腰を抜かす俺。
「「「「「「「ダイジョウブデースカ?」」」」」」」
タイルの一つ一つにもポールの顔が。
俺は怖くなり、急いで外へ出ようとした。
「シッカリシテクダサーイ」
ドアからもポールの顔が。
俺はとにかく外へ出ようと視線を下に落とす。
見つけたそれに手を伸ばすと、変化が。
「コワガルコトアリマセーン」
取っ手もポールだった。
恐怖の余り、一瞬ためらいはしたものの、背に腹は代えられない。
取っ手を握り、部屋から、マンションからも逃げ出した。
無事に外へ出て、俺は振り返った。
するとマンションからもポールの顔が。
でも、それだけじゃない。
「友達だと思っていたのに酷いでーす」
俺の手から流暢な日本語が。
取っ手を握っていた手を見ると、そこにもポールの顔が在った。