132 思い出バトン
近所に不思議な駄菓子屋があった。
いつ崩れてもおかしくないほどに古びた建物駄菓子屋だ。
まあ、よくある話で、そこの駄菓子屋の商品は唯一無二。商品毎に不思議な事が起こるという、変わった店だった。
やれ、テストで満点が取れるとか、片思いの子と両想いになれるとか。足が速くなるとか、そんな話とここの駄菓子屋の商品は何時もセットで付いてきた。
子ども達は、お金を握りしめ、今の自分が欲しい効果の商品を熱心に探したもんだ。
けれど、それは所詮子どもレベルでの悩み。
当時の俺は、そんな熱いせめぎ合いとは無縁だった。
お小遣いすらもらえない貧しい家庭だったから? いいや、違う。そこらの子どもよりもお小遣いを貰っていたからだ。
他所は一か月に一度でも、うちは一週間に一回。一月に四から誤解はもらえていた。
そう、裕福な家庭というやつだ。
だから、必要であれば悩む事無く、際限無く駄菓子を買い漁った。
そのおかげで、子ども時代で苦手なものを食べる時くらいしか苦労をした覚えが無い。
勉強だって、テストで満点が取れる駄菓子し食べてからやったらしっかり記憶していたし、両想いになれる駄菓子を食べた後でもそれに甘んじる事無く身だしなみには気を使った。
足が速くなる駄菓子を食べた後は、風になれたみたいに速く走れたから、滅茶苦茶に走り回って体力が付いた。
という感じで駄菓子を食べて色々やっていたら、大体何でも出来るようになった。
そんな自分は今では立派な駄菓子屋だ。
駄菓子を誰よりもたっぷり、たんまり食べて育った俺は、ある時店主に言われたんだ。
「次はお前の番だよ」
すると体が見る見る変わって、自分が見慣れた駄菓子屋よりも見栄えが良くなった建物になってしまった。
今日も、明日も明後日も、子ども達を受け入れ続ける。売るのは当然、自分が網羅した駄菓子屋の駄菓子。
熱心にお金と駄菓子を交互に見比べる皆の中から、次のバトンを渡す相手を探しながら。