127 プラマイカップル
「もう駄目だ。別れよう」
俺は彼女に言った。
「そんな、嫌だよ。どうしてそんな事言うの?」
理由が分からないと渋る彼女に俺は言った。
「お前、俺にドンドン足してくるだろ。それが耐えられないんだ」
そう、彼女は俺のためを思って色々してくれるのだが、それが重荷になっていた。
牛丼の並で良いのに牛皿を追加したり、安物の靴で良いのに私も出すからと予算の倍の俺の趣向に合わない靴を買ったりなど、例を挙げればキリが無い。
お互いに無理をしても仕方が無いからと、俺から切り出した。
「ごめん。もうしないよ。君のためだって、勧めないよ」
「だから、そういう所なんだよ。今も一歩引いて俺の意見を尊重してくる。今の俺にはその優しさも足されているように感じて駄目なんだ。頼む、そこからこちらには来ないでくれ」
人二人分くらいの距離から近付くなと言う俺。
その時だった。
「ちょっと通るぜ~」
「修羅場にごめんね~」
めちゃくちゃイチャイチャしているカップルが俺達の間を通り抜けようとした。
俺はそのカップルの女の方を見て、胸が打ちぬかれたような衝撃を受けた。
「悪い、彼氏さん。それに、彼女さんも悪い。けど、君に堪らなく惹かれてしまったんだ」
一目惚れだった。堪らず、彼女さんにくっ付いていた。
「あー、酷いよぉ。私と言う彼女が居るのにさ」
「別れ話の最中だったのに悪い。けど、お前だって人の彼氏に抱きついてるじゃないか」
引き留めていた先程までの姿は何処へ行ったのかというほどの抱きつきっぷりだった。
「私だって分からないよ。でも、すっごく魅力的だったんだもん」
俺達は、お互いにたまたま通り過ぎようとしていたカップルに心惹かれてしまっていた。
「はは、まったぜー。でも、いいんじゃね? 面白そうだから、ちょっと四人で話そうぜ~」
彼氏さんの軽さに抵抗があったが、それを我慢してまで、彼女さんと離れたくなかった。
俺達は、別れ話をうやむやにし、四人で話せる場所に向かった。
男同士、女同士での関係は反発しあうほどに最悪だったが、彼女さんと彼氏さんがくっ付いていると、それも耐えられた。
これが俺達の、磁石のような奇妙な関係の始まりだった。