125 シチューに活を見出す
俺の名前は岩清水。天才料理少年岩清水と言えば俺の事さ。
前回までのあらすじを揚げたてのカツくらいサクッと紹介するぜ。
永遠のライバルである天丼フライとの最終料理バトル。
フライは得意料理の煮込みうどんを完成させて、審査員達が失神痙攣するほどの再起不能の美味さをぶつけてきた。
一方の俺は、重大なミスに気付き顔面蒼白状態だった。
「く、くそっ。やっちまった」
俺はとろみ感の一切無い水道水のように透き通った鍋の中身を見て佇んでいた。
究極のシチューを作ろうとして、ルー水分のギリギリを狙った結果、具材の水分が上回ってしまい、御覧の有り様だった。
(ルーはもう無い。フライとの戦いにスペアなんて要らなかったからな)
でも、今回は必要だった。ああ、分かってる。これも全ては結果論。起こった後ならどうとでも言えるのさ。
(けど、どうする? 審査員達は救急隊員の人達のおかげでまもなく目を覚ましそうだ。起きる前に料理を完成させないと……)
俺は上着のポケットに手を入れた。
「ん? なんだこれ?」
掴んで取り出すと、市販のカレールーの箱出てきた。
「な、何で、どうあってもはみ出るはずのポケットの中からカレールーが!?」
ふと過るのは、今頃居間でせんべいを貪り喰らっている三代目でギャグキャラ化した母さんの姿。
「天才服飾デザイナーの岩清水って人のジャケットを買ってきたよ。二百円だったんだよ。うべべべべ」
「母ちゃん。いくらギャグキャラでもうべべは笑い声としてはきついぜ」
回想を終え、観客席に居るレジェンド十人母さん(三代目欠席)の方を見る。
「正直、四人目以降は出番の度に変わってたから顔すら把握できてないけど、俺、やるよ。初最初の母ちゃん以外は覚えが無くて、増えて変わっていく歴代母ちゃんに恐怖して近所で一人暮らしをしている父ちゃんも見ててくれ。俺は絶対に勝つからよ!!」
やる気と気合を復活させた俺に、救急隊員の声が。
「審査員達、後五分で目覚めます」
つまりは制限時間は五分って事だ。
良いぜ、やってやる。でもその前に裏の使い方を熟読しとかないとな。
どんな食材も器具も正しい使い方が重要だからな。
「残り、三分です」
読み終えた俺は、箱を開け、ルーを中に投入した。
「使い方がとっても簡単で助かったぜ。沸騰しているお湯の中でも入れてオッケーとは、せっかちな俺に優しい仕様だぜ」
失敗シチューに溶けているカレールー。その匂いが会場に広まっていく。
複雑怪奇に詰め込まれたスパイスの匂いに審査員達の様子に変化が見られた。
「か、カカ、カレー。カレェェェェェ」
理性を失った悲しき怪物のような声と共に意識を取り戻す審査員達。
(やっべ。まだ完全にルーは溶けちゃ――)
ちらりと鍋の中を見ると、ルーの姿は無い。
沈んだだけかと思い、お玉で探る。
(完全に溶けただけじゃない。もうとろみも出てる!!)
まだ二分しか経っていないというのにと驚いちまった。
「待たせたな、皆。俺の料理の完成だぜ!!」
急いで料理を運ぶ俺。
「おお、カレーだ。カレーだぞ」
審査員の一人が言った。もう一人の審査員が言う。
「ん? ライスが出ていませんよ。カレーにはライスです。私はライス派ですからね」
(し、しし、しまったぁぁぁぁ。米なんて炊いてないぜ。シチューだったからな)
絶対絶命の窮地に立たされた俺。もう料理を出しているから、どうする事も出来ない。
その時だった。
「待ちな。そのカレー。俺の米と合わせりりゃ美味さ三千倍だぜ!!」
「ふ、フライ!?」
敵であるはずのフライからの提案。
「お、お前。どうしてだ? なんでこんな塩を送る真似を……」
「塩だって? 馬鹿言うな。俺はな、米には拘ってるんだよ。その俺がビンビンに感じちまったんだ。このカレーと米は絶対に合うってな」
「まあ、カレーライスになるからな」
何を当たり前の事を言っているんだと思ったけれど、窮地を脱せるならなんでも良い。
「代わりに、食わせろよ。カレーをな」
「ヘヘ。こいつぅ」
お前って奴はそういう奴だよな。
こうして皆揃って俺達はカレーを食べた。
「やっぱ、皆で食べる料理ってサイコーだよな」
これぞ大団円。全てまるっとうまく納まったぜ。
本日ご紹介した活路を見出したカレールー活は、なんだこれ食品から、各地のスーパー、コンビニで本日より販売開始です。
「皆、どんな料理もこれで活路を見いだせ!! お手軽は料理の隠し味だぜ!!」
以上。本日の新商品のご紹介でした。