124 ミッドナイトロンリー
「くそっ、なんてこった。閉じ込められたっ」
俺は強がりと少しのアルコールが手伝って、ドアの前で憤っていた。
目の前にある鍵のかかったドアの向こうには、俺の城があるっていうのに、これじゃあ行けない。
広い世界に居るせいで、夜に吹く風がやけに冷たく感じる。
きっと俺が何も持っていないからだ。
「ちくしょう。なんでこんな事に……」
悔やんでも後の祭りだ。既に神輿は過ぎ去り、喧噪も聞こえない。
とっぷり暮れた闇の中で、俺を支えくれるのは、俺の前に立ち塞がった憎いドアだけだ。
「何にも浮かんでこねぇ。完全に積んじまった」
歩いてどうにか出来る距離じゃない。拝んで落ちてくる訳じゃない。
気分良く帰って来る途中で全てを無くしちまったんだ。
数時間前が俺の今日の最盛期だった。いや、落差を思えば、店を出た時がこの世の春だったように思う。
「こりゃあもう、謡うしかねぇな」
笑いたくても笑えない。泣きたいけれども泣けもしない。出来るのは、話す事。でも、一人喋りは心が荒む。それなら出来る事は一つだけ。歌詞を思い出している間は何も考えなくて良いから歌うだけ。
だから俺は歌い始めた。
「ろぉぉぉんりぃぃぃぃ。ろぉぉぉぉぉぉんりぃぃぃぃぃぃぃぃ」
大きな声を出せば、鬱憤も一緒に多少は出て行く。気分もだんだんノッてきた。
「あの、ちょっと良いですか?」
良い気分になってきた所で、二人組に声をかけられた。
二人は、俺に向けて身分証を見せる。
「深夜のこんな時間に騒いじゃ駄目じゃないですか。それで通報されたんですよ」
そう、二人はお巡りさんだった。
「サイフも電話も鍵も、全部帰り道で落として、もう歌うしか無かったんです」
事情を話すと、お巡りさんは親身になってくれた。
家に入れれば金を用立てる事が出来ると伝えると、鍵屋を呼んでくれた。
おかげで俺は城に戻る事が出来た。
寒空の下に居た俺は、冷えた体を温めるため、俺しか居ない部屋に入ると布団に包まり、体を温めた。
部屋の中だっていうのに。布団の中だっていうのに。
今日は底冷えが酷くて眠れやしない。