119 話聞かない系勇者
「魔王様大変です」
数時間前に復活したばかりの側近がえらい勢いでやって来た。
「何々、今午後ティータイムなんだけど」
「ま、魔王様?」
オフタイムはラフにと決めていた魔王。その姿に戸惑う側近。
「いや、それりもうぎゃぁぁぁぁ」
台詞の途中でバッサリ背後から切り捨てられる側近。
「え!? 何々?」
突然の事に驚く魔王。優雅に構えていたティーカップの中身がこぼれて、下半身が色んな意味で大惨事。
「かくごぉぉぉぉっ!!」
威勢の良い声で迫る不審者。
防御するまもなく、魔王は一撃を浴びせられた。
「うわぁぁぁぁ……。って、痛くない」
それどころか、ラフウェアも斬れてな~い。
「く、流石は魔王だ」
一度下がる不審者。
「いやいや。これ、近所の人間の服屋で買った普通の服なんだが? そもそもお前は何者なんだ?」
「俺は勇者だっ!! 名前は」
そのまま名乗る勢いでまた斬りかかってくる不審者。
「全然攻撃聞かないんだが。そもそも、不意打ちするとか勇者にあるまじき行為なんだが?」
そもそも自身とまともに戦うに値しない実力に困惑している魔王。
「お前、レベルは幾つだ?」
「れ、れべ?」
何一つ理解していないような表情。
「いや、勇者なら王様から説明があっただろう」
「お、おう?」
何故疑問形なのか。
「だから説明があっただろう?」
改めて確認する魔王。
「……会ってない」
「え?」
「会ってないっ」
意固地になっているような反応をする勇者。
「え、王様から認められないと勇者では無いぞ」
「そんなの知らない。呼ばれるまで待ってられなかったし」
「まあ、勇者は量産品だからな。先ほども無限増殖する勇者を葬ったばかりだ」
きっと今も増え続けているだろうと、背筋を震わせる魔王。
「そもそも、どうやってここへ来た? その実力だとここまで来れないだろう?」
「なんか、団体で魔王城に行く奴が居たから付いてきた」
今日来た勇者に付いてきたと知る魔王。
「よくその実力で挑んだな」
「隙を突けば行けると思った」
そう言ってまた仕掛けてくる勇者。
「いや、そもそも、防御を抜けれていないんだよ。その実力じゃ、地元の敵も倒せないだろ」
「は、ハエなら倒せたし」
(ん~、それはこちらとは無関係だ)
外で戦うための実力自体に問題があると判断した魔王。
「もう、今日はオフだし。故郷まで送ってあげるから、勇者諦めな?」
「分かった。そうする」
素直な反応を見せる勇者。
「休んでいる所を邪魔した。これ、地元の名茶」
お湯で溶かして飲むタイプの丸薬を手渡す勇者。
「そうか。では、もらおう」
空になっていたティーカップに入れ、飲む魔王。
「う~ん、とってもヘルシング」
内面から綺麗になっていく感じがする魔王。
「だからと言って、攻撃が通じる訳では無いぞ」
堪能している所をまた攻撃してきた勇者。
「本当に話を聞かないな。何処へでも行ってしまえ」
何処かへとワープさせる魔王。
「全く、勇者の質が落ち過ぎだ。王に抗議しなければ」
後日。抗議をした結果、裸踊りをする勇者や自分の体を鞭で打ちつつやって来る勇者など、怪しい者ばかりが魔王城を訪れるようになり、魔王は頭を悩ませ、人間に敗れ去った。
こうして世界は、別の意味で危険な奴らが溢れる世界へとなり下がってしまった。