118 からみ屋
新しい店が出来ていた。
全開の店はかなり酷かったらしく、随分と早く変わってしまった。
今度の店はどんなだろう。
「いらっしゃいまっせ~」
私を見て、店員が挨拶と共にすっごく距離を詰めてきた。
同性だからまだ許される距離感。これだ異性だったら即座にバトルフェイズに移行していたかもしれない。
「本日はどのようなタイプをご希望ですか?」
「た、タイプ?」
何やら質問がおかしい。堂々と日中からやっていたから、健全な店だと思っていたけど、失敗だったかも。
「す、すみません。間違えて入ってしまって」
偉い、私。ちゃんと断れた。
「あ~、はいはい。では、チャラ系でいきましょうね~」
背面からの肩に手乗せ押しプッシュで店の中へと連れて行く店員。
有無を許さず連れて行かれたのは個室。明らかにいかがわしい。
「では、ちょっと待っててくださいね~」
手をひらひらさせ、店員は部屋を出てしまった。
部屋にあるのはソファー。腰かけ、見回してベッド。とにかくいかがわしい。
「どもども~。お待たせしました~」
軽めな挨拶と共に開かれたドア。
(うわ、チャラ系だ!!)
普段関わる事の無いタイプと狭い部屋で二人きり。
(これ絶対何かある奴だ!!)
私の勘がそう叫ぶ。
「お姉さん、間違いで入っちゃった系何だって? あるある、最初はけっこうそういうのアルケミスト~」
無遠慮に私の横に座る男。
「は?」
「あれ、ウケ無かった系? ちょっと調合失敗したか~。俺、アフロ大爆発」
何を言っているんだ、この男。
これはあれか? 新しいおやじギャグか?
一気に緊張が解け、頭が冷静になる。
「あの、本当にどんな店か分からずに入っただけなんで」
立ち上がる。
(よし、良い感じに立ち去る空気が出来たぞ)
私にしては上出来だと思った。
「いやいや、待って待って。まだ来たばっかりじゃん。もう少し打ち解けようよ。対話してこうぜ、俺達の誤解を解くためにさ」
「例え誤解があったとしても、解く必要は無いかと」
「あるある。お茶片手に二人で語らえば二人は良い仲になるって~」
(良い仲……?)
視界にベッドが入る。つまりは、男の狙いはそこなのだろう。
(何となく、店の形態が見えてきた。ここは客がお金を払い、プレイする場所。タイプを選んで、そういう設定で始めるロールプレイタイプの店って事ね)
なら何故、私にはチャラ系だったのか。私が最も苦手で距離を置きたいタイプだというのに……。
「なりません。私、用事があるので失礼します」
男の引き留めを強引に拒み、ドアに手をかけた。
「はい、オッケーでーす。ちゃんと言えたじゃない」
チャラい感じが消えた男の声。
「え? どういう事?」
訳が分からない。
「ちょっと待っててくださいね」
真面目な雰囲気の男が部屋を出た。
数分後、男が戻って来て、一枚の紙を渡してきた。
「今回の結果です。これ見て、更に腕を磨いていきましょう」
「??」
さっぱり分からない。私は、店を出てから渡された紙を見た。
それには、からんでくる相手への断り方と今回の断り方の評価が書かれていた。
家に帰り調べてみると、断れない人が断る練習をするための店だったと分かった。