105 魔法少女界隈
「魔法少女~。魔法少女になりませんか~?」
僕だけがそう呼びかけているのではない。
人通りの多い場所に出れば、様々な魔法少女勧誘が行われている。
由緒正しい魔女っ子。お悩み解決魔法少女。正義のために戦う魔法少女等々の勧誘が行われている。
僕らは魔法の国や、遠い星からやって来た宇宙人だったりと、様々な背景を持っているけれど、その目的は全て同じ。
この星に居るイマジナリーに高い人間という存在に魔法少女になってもらう事。
取り分け未成年は僕らの規準を満たしている人が多い。成長するにつれてその適性を持つ人はどんどん少なくなっていく。
だから僕らはこの世界の祝日、休日が勝負の日。だって対象者が親御さんと一緒に出かける事がおおいんだから。
親御さんにも説明して、脱法魔法少女や危険魔法少女勧誘じゃ無い事を理解してもらうんだ。
少なくとも、僕はそうやって勧誘を続けている。
世界はそう、魔法少女勧誘ブームなんだ。
けれども、こんな真面目な勧誘をしているのはけっこう減ってしまった。
だって皆、言葉巧みに親御さんの居ない所で警戒心の薄い子どもを勧誘した方が楽だから。
まあ、親御さんが一緒でも、色々と耳障りの良い言葉と一緒に欲を撫でれば簡単に承諾する人が最近増えているみたい。
デスゲーム系魔法少女のマスコットは、こういう系の誘導が得意だから質が悪いし、そんな誘いに乗ってしまう親御さんの話を耳にすると、世知辛い世の中だと思う。
僕は今、もふもふで小さい子が思わず抱きつきたくなるような外見をしているけれど、故郷の魔法の国じゃ、ちゃんと人の姿で暮らしてる。
態々愛嬌振りまくマスコットのような姿で居なくちゃいけないのには訳がある。
パートナーになっても、異性と同居となると親御さんが顔を顰めるからさ。
だから僕らは、姿を隠してぬいぐるみのような姿が本当だという事にしているのさ。
全くね、昔はこうじゃなかったんだよ。
古くは、櫛とかかんざし。別の国ならティアラなんかで変身していた。現地に溶けこむために合わせた姿になる事はあったけれど、本当の姿をお別れしても隠し通さなくちゃいけないなんて事は無かった。
今は世間体というしがらみで、僕らは我慢の日々さ。
変身道具も時代と共に変わっていった。
先の例の後には手鏡、コンパス、飴玉と、用意するのが簡単だった。でも、今じゃスマートフォンに楽しいとか嬉しいの結晶が必要だったりする。
知り合いの戦う魔法少女の勧誘をしていた人が嘆いていたよ。
「年々、よく分からない物が無いと変身してくれないんだ。それに、やたらに一着だけじゃなくて、たくさん着たい。色んな力を使いだ言ってさ。契約の最後には煌びやかでド派手な衣装が欲しいって言うからさ、段階踏むのも一苦労なんだよ」
そう愚痴りつつ、彼は流行を掴むために女児向けファッション雑誌のページを捲っていた。
日を変えて今日も勧誘を続ける。
「魔法少女~。魔法少女になりませんか~?」
僕と契約したら、古き良きベーシックでスタンダードな魔法少女になる。
コンパス片手に呪文を言うのさ。ただそれだけじゃ最近の子は物足りない。
だから、変身できる機能も付いている。着替えられるのは一着だけだけど……。
でも、必要なら魔法少女の好みのままに魔法で服を出す事も出来るし、箒に乗らなくても空は飛べるし、水の上を歩く事も出来る。
流行りに乗って勧誘しているマスコットとは違って、やってみたいと思った事は大体出来るくらいには制限が無い。使い方次第でどんな状況だってひっくり返せるのがシンプルかつ単純。
それでいて自由というのが僕の所の強みだった。
「ねえ、マスコットさん。あなたはどんな魔法少女にしてくれるの?」
声をかけられて驚いた。僕の勧誘に興味を持つ人なんて随分と久しぶりだったから。
振り返れば、僕らが求める年齢の範囲内の少女が立っていた。
「君は小学生? 僕の所はコンパスで呪文を唱えて魔法を使うんだ。流行りの魔法少女みたいにたくさんの道具とか、衣装は無いよ」
駄目な所も誠実に伝える。僕は誠実をモットーにしているから。
「全然問題無いよ。だって、魔法は無限大だもん。何だって出来るんだよね?」
久しぶりにこんなに純粋な言葉を聞いたと思った。他の勧誘の話を聞くと、道具や衣装が無いと魔法が使えないと訴える子が多いらしいから。
だというのに、僕に声をかけてくれた彼女は、足りない所は自分が魔法で補うと言う。
「もちろん。僕と一緒に魔法少女になってくれたら、大体の事は出来るよ」
古くて駄目だと言われ続けても頑張ったかいがあった。泣きそうになるのを堪え、僕は話を続ける。
「本当に魔法少女になってくれるのなら、親御さんにも説明するよ。お家に連れてってもらえるかな? それか、都合の良い時間を教えてくれたら、その時間に尋ねるよ」
「今で良いよ。付いて来て」
少女はそう言うと、駆けだした。
僕は彼女が希望の光に見えた。
「ここだよ」
「え?」
道中、おかしいなと思っていたけれど、紹介された場所に動揺していた。
そう、彼女の両親のお墓だったからだ。僕はもしかしてと思い、彼女に告げた。
「残念だけれど、死者を生き返らせることは出来ないんだ」
「うん、分かってるよ」
彼女は明るい笑顔で答える。どうやら、彼女の中では吹っ切れているらしい。
でも、ここで僕は新たな目的が出来た。
彼女が僕と契約して魔法少女になるというのなら、僕が彼女の親代わりになろうと。
「私、魔法少女になれる?」
彼女が尋ねてきた。僕の答えは決まっている。
「大丈夫、一緒に魔法少女になってよ」
僕らはこうして契約をした。