101 愛比べ
とある海岸。夜明け前のその場所に人影が二つ。
「わたしー。あなたのことがすきー」
女が海に向かって叫んだ。
それを聞いた男も海に向かって叫んだ。
「おれもー。君の事がだいすきだー」
男は叫んだ後、女に微笑んだ。
「わたしもー、もっとだいすきー」
先ほどよりも声を張り上げて叫ぶ女。どうだとばかりの表情。
「おれもー、もっともっとだいだいすきー」
更に音量を上げて叫ぶ男。
時刻は夜明け前。豆腐屋か新聞屋くらいしかまだ動き出していないような時間帯。
民家から離れてはいるが、大変迷惑である。
しかし、互いの愛を張り合う二人からすれば、そんなのは些細な事。
二人の世界の中で生きているのだから、これほど迷惑なものは無い。
声で張り合う事、更に数回。
これ以上は喉が耐えられないとなった時。次に二人が何をしたのかというと、背伸びだった。
当然、男女差で女の方が不利なのだが、女はそれを乗り越えた。
つま先立ちでは無理だと悟ると、自身の身長を大きくした。
男の二倍ほどの身長になった後、女は言った。
「私、これくらい好き」
見下ろして愛の大きさを伝える女。
「俺だって、その倍は好きだからな」
なんと、男も負けじと自身の身長を大きくさせた。
そこからは「倍好き」「更に倍好き」と繰り返し続けた。
そんな張り合いをしていると、当然頭は真っ先に頭が宇宙にやってくる。
そこで張り合いは終了かと思いきや、二人はまだまだ続けていた。
先に諦めるのはどちらか?
男と女。軍配はどちらに上がるのか?
勿体ぶった所で、意味は無い。
何せ、先に星が悲鳴をあげたのだから。
二人の伸びに伸びた身長に耐えられず、星が底をぶち抜いて貫通してしまった。
貫通したら、そこを起点に地球が真っ二つに割れてしまった。
こうして一つの星が終わり、このお話も終る。
いやー、迷惑でしたね。