貧乏娘ミリア、衣食住に釣られて貴族学園に入学する
新作です!
異世界恋愛は初挑戦です!
それはまだ肌寒い、3月初めの頃だった。
とある寂れた農村に住む16歳の少女、ミリアは山菜取りを終えて山を降りて来ていた。
朝早くから山の中を一日中探し回り、へとへとになりながらも何とかカゴいっぱいになるまで採集することができて満足していた。
山のふもとまで降りてくると、登る時には見かけなかったモノを見てミリアは首をかしげる。
すでに夕暮れなので見づらいが確かにそこに在る。
黒いローブで全身を包んだ、何者かが木に背中を預けて座り込んでいた。
――ぎゅるるる~!!
しかも、恐ろしい鳴き声まであげてきた。
いや、これはよく聞くと鳴き声というよりもお腹の虫の方の……。
「……お腹空いてるの?」
「チッ!」
ミリアが思わずその黒いローブの生物に声をかけると舌打ちで返事をされた。
フードを深くかぶっているせいで顔は見えないが、声の感じ的にこの人は若い男性らしい。
「ちょっと待ってね、生でも食べられる野草も持ってるから」
「――っせぇな! 小汚ねぇ貧乏人が俺様に話しかけんじゃねぇ! さっさとどっかに行きやがれ!」
「いいからいいから、少しアクが強いかもしれないけれど私もよくそのまま食べるし」
「雑草なんか食えるか! ウサギじゃねぇんだぞ!」
せっかく必死にかき集めた貴重な野草を分けてやろうというのに暴言を返されてミリアは頬を膨らませた。
「あのねぇ! キミ、今日泊まる場所はあるの? まさかこのまま野宿しようだなんて思ってないよね?」
「お前には関係ねぇだろ! その餌を持ってさっさと帰れこの貧乏うさぎ」
ついに堪忍袋の尾が切れそうになったが、ミリアは落ち着いて深呼吸をした。
大丈夫、このクロすけは言わば捨て猫のようなもの。
顔も見せようとしないし、人間を警戒しているだけなのだ。
そう自分に言い聞かせて冷静に説明する。
「夜はこれからどんどん冷えるし、もしかしたら魔獣だって出てくるかもしれない。 このままここで休んでいても衰弱して死んじゃうよ?」
「……いいんだよ、別に。このまま消えられるなら本望だ」
クロすけはそう言うと、フードをさらに深く被り直した。
ミリアは腕を組んでしばらく考える。
考えが決まると、背負っていたカゴを地面に置いた。
そして、ビシっと指をさして宣言する。
「よし、あなたをウチに連れて帰ります」
「はぁ!? ふざけんな、死ね」
「そう言うと思っていたので私は無理矢理連れていくことにしました。こらっ! 大人しく観念しろっ!」
ミリアは無理矢理抱き抱えるようにして青年を持ち上げた。
「離せ……! くそ、こいつ力が強ぇ!?」
「し、失礼な! 私の力が強いんじゃなくてアンタが空腹でヘロヘロなだけよ!」
その言葉のとおり、この少年は何日も食事を取れていないようだった。
しかし、ミリアも腕力はあるがそんな彼を運んでいけるほどの体力は残っていない。
「アホ女、俺を持ち上げただけでそんなに足がガクガクだと100mも運べねぇだろ」
「ヒョロヒョロのあんたくらいウチまで運べます~!」
「……そのカゴの中の葉っぱや木の実はどうすんだよ」
「置いていくわ。流石にあなたとカゴの両方は持てないし」
「こんなことしても、お前が損するだけじゃねえか」
「アンタには関係ないでしょ」
自分が言われた言葉と同じ言葉を言い返すことができて、ミリアは満足そうなドヤ顔を見せる。
「……チッ、自分の足でついて行ってやるから一刻も早く降ろせ貧乏ウサギ」
「貧乏ウサギじゃないわ。私はミリア。ミリア・クローティアあなたは?」
「…………」
少年は何も言わず、再びお腹を「ぎゅるるる……」と鳴らして返事をした。
「よろしくね、腹ペコさん」
この捨て猫少年を引き連れて、ミリアは自分の家まで戻った。
◇◇◇
「――ただいま!」
「「お姉ちゃん! おかえり~!」」
ミリアが帰ると、妹二人と弟一人が出迎える。
年齢は下から7歳の女の子ララ、8歳の女の子リン、9歳の男の子ソラ。
長男のソラがミリアの背中からカゴを持ってあげた。
「お姉ちゃん、お疲れ様!」
「すご~い! こんなに採れたの!?」
「流石はお姉ちゃん!」
「驚くのはまだ早いぞキミたち。今日はさらに大物を拾ったんだから」
ミリアがそう言ってドアの外に出ると、腕を引っ張って黒いローブに身を包んだ青年を引きずり込んだ。
兄妹たちは不思議そうにその黒い塊を見つめる。
「お姉ちゃん、これはなに~?」
「捨て猫よ! まだ人間を警戒していて噛むかもしれないから、あまり手を近づけないように」
「――お前に噛み付いてやろうか?」
「聞いてのとおり、名前は腹ペコの『ペコちゃん』! 何でも食べようとしちゃうから気をつけてね」
「お前と一緒にすんな、貧乏ウサギ」
ミリアが雑な説明すると、兄妹たちが少し厳しい目をして仁王立ちをした。
そして、次女のリンが人差し指を振りながら親が子どもに言い聞かせるように語り出す。
「お姉ちゃん! 拾ったからにはちゃんと責任を持って最後まで面倒をみないとダメなんだよ?」
「そうそう、生き物を飼うっていうのは大変なことなんだから!」
「ちゃんとお散歩できる? 水も毎日替えられる?」
「大丈夫! この猫は賢いから自分で散歩ができるのよ。でも馬鹿だから散歩先で勝手に死にかけたりするの」
「だから猫じゃねぇって……つか、猫に散歩は必要ねぇだろ」
「お姉ちゃんがいつも私たちに言ってることなんだから、お姉ちゃんも守らないとダメだよ!」
「はいはい、この猫が脱走でもしない限りは私が面倒をみるわよ」
楽しそうに笑うと、ミリアは前掛けを着ける。
「ちょっと待っててね、貴方が空腹で死ぬ前にはご飯を作るわ」
「……勝手にしろ。お前の指示通り俺はここに来ただけだ。もう出ていく」
「え~、お兄ちゃん食べないの~?」
「ダメだよ! お姉ちゃんの山菜粥はすっごく美味しいんだから!」
「食べないと、ぜっったいに後悔するよ!」
「それにお外は寒いし、ここにいたほうがいいよ!」
「わっ! お兄ちゃん、体がすっごく冷たいよ! ほらほら、ここに座って!」
どうやらこのクロすけは子どもに弱いらしい。
服を引っ張られると、大人しく座って子どもたちにおしくらまんじゅうで体を温められていた。
「お待たせ! できたわ!」
ミリアが山菜粥を器によそっていくと、長男のソラがそれを取りにきてくれた。
結局、子どもたちに引き止められたままだったクロすけは身も心も温められた状態で目の前に薬草粥を出されるに至ってしまった。
「ふん、なんだこの――」
そう言いかけて、クロすけは山菜粥を前に目を輝かせる子どもたちを見て口をつぐんだ。
「すご~い! ご馳走だ~!」
「こんなの、お誕生日の時くらいしか食べられないよ~!」
ララとリンはに手を取り合って喜び合う。
クロすけはそれを聞いて、再び自分の器を見た。
「……おい、俺のだけ量が多くないか? お前ら、俺の皿から食いたいだけ取れ」
「あぁ! ダメダメ!」
クロすけの言葉に長男のソラが慌てて反発する。
ミリアはクスクスと笑った。
「ふふっ、ソラったら『お兄ちゃん、本当に凄くお腹が減ってそうだから俺の分のお粥を少し分けてあげて!』なんて言ってきたのよ」
「い、言わなくていいって~」
ソラは恥ずかしそうに赤面する。
その言葉を聞いて、クロすけは深く被ったフードの奥から呆然と自分のお粥の皿を見つめた。
「じゃあはい! お兄ちゃん! 私のお気に入りの山菜も一つあげるね!」
「じゃあ、私も! このグルグルしてる葉っぱ食べて!」
ララとリンもクロすけのお皿に自分たちのお皿から少しずつ分けていった。
「お姉ちゃんはあげないの?」
「私はあんたたちが楽しそうにしてる間に食べ終わっちゃったわよ」
「え~!? ぜんぜん、気がつかなかった!」
「お姉ちゃん、いつも食べるの速すぎ~!」
「はいはい、ごちそうさま」
ミリアはそう言って、一切の湿り気のない綺麗なお皿とスプーンを置いた。
「ほらほら! お兄ちゃん、早く食べてみて!」
「今日は特別なご馳走なんだから!」
子どもたちに急かされて、クロすけは震える手で器を顔に近づけた。
そして、山菜粥を口にかっこむ。
「どうどう? 美味しい?」
「そんなに顔を器に近づけると湯気が熱いよ~?」
クロすけは器で顔を覆ったまま呟く。
「……あぁ、美味しい。良い塩加減だな……」
「お塩なんて入ってないよ~?」
「……入っているのよ、少しね。ほら、あなたたちも冷める前に食べなさい」
ミリアはそう言うと、洗い物のために調理場へと戻った。
◇◇◇
洗い物を終えたミリアは居間に戻ってきた。
クロすけと一緒に遊び疲れてしまった子どもたちは身を寄せ合って寝息を立てている。
「両親はいないのか?」
子どもたちへと顔を向けながらクロすけは訊ねる。
「えぇ、私たちは捨てられてしまったの。魔力がなかったから」
「ミリア・クローティアか。ファミリーネームを聞いた時に思ったが、帝国の名門貴族クローティア家と関係があるのか?」
「そこの出身よ。でも、『いないこと』にされてしまったんだけれどね」
「そうか、だから『これ』か」
クロすけが突然黒い手紙を取り出して、ミリアは驚愕した。
「ちょっと!? なにしてるのよ!」
「おい、子どもが起きるだろ! 静かにしろ!」
「あんたが勝手に私の手紙を読むからでしょうが!」
ミリアが手紙を取り上げたが、すでに遅かった。
「――エステラード魔導学院の不合格通知か」
クロすけは馬鹿にするでもなく呟いた。
ミリアは少し顔を赤らめる。
「ま、まぁ……私なんかが王都の学校に入学しようだなんて無謀な話だったわ」
「……エステラード魔導学院は家柄を重んじる貴族や王族の学校だ。農民のお前は採点すらされずに落とされたかもしれんぞ?」
「あはは、何? 気遣ってくれるの? でもきっと私が馬鹿だったせいよ」
「……お前の右手の指先が血豆だらけになるほどに勉強したのにか?」
「これは山菜を採りすぎたせいよ。私は弟たちを食べさせていかなくちゃいけないの。環境を嘆いて腐っている暇はないわ」
ミリアがそう言うと、クロすけは少し押し黙った。
エステラード魔導学院。
帝国一の有名な超名門校だ。
ここの生徒になれば学費がかからない。
それどころか、学生寮と家を与えられて家族と帝国に移り住むことができる。
だから、ミリアも妹たちと豊かな暮らしをするためにこの学園を受験したのだろう。
歩いて片道数時間はかかる王都の図書館へと日々おもむき、勉強をして。
「クローティア家に戻りたいと思っているのか? お前を捨てた家だぞ?」
「弟たちには両親が必要よ。豊かな暮らしができるなら私の気持ちなんてどうでもいいわ」
「……そうか。俺はもう寝る」
そう言うと、クロすけはフードをさらに深くして壁にもたれる。
ミリアはこの暗い中、すぐに出ていくとは言わなかった彼に少しだけホッとしていた。
まぁ、言い出したら力づくで止めていたのだが。
「お休みなさい」
小さな声でそう言うと、目を閉じた。
――翌朝
クロすけはいなくなっていた。
結局、あいつは最後まで顔も見せずに出て行ってしまった。
でも、ミリアには今度はもう大丈夫だという確信があった。
拾った頃は自暴自棄だった彼の言葉に、今度は強い意志を感じたから。
どこの誰だかは分からなかったけれど、生きる希望を持ってくれたのだと思う。
「さて、私も頑張らなくちゃ! 編入試験を受ければ2年時から入学できるかもしれないし……ってその前に畑に水をやりに行かないと」
ミリアは大きく伸びをした。
◇◇◇
数日後、ミリアに信じられない知らせが届いた。
『入学試験を採点し直したところ、貴殿は我が校の合格に十分に足る優秀な成績でした。本来であれば2次試験の実力試験を課すのですが、筆記試験が首席の成績であることを加味いたしまして、王族エステラード家の名において貴殿を我が校の生徒として相応しいと認めます。ご入学、おめでとうございます』
ミリアは涙を流して弟たちと喜び合った。
これで、王都での生活ができる。
家に戻るには時間がかかるかもしれないけれど、ひとまず弟たちにちゃんとした食事を食べさせ、暖かい布団で眠らせることができる。
長く住んだほったて小屋に別れを告げ、ミリア達は王都へと向かった。
――王都に着くと、住民用の入り口を門番が守っていた。
最初は難民と間違えられて追い出されそうになった。
ボロボロの服を着ているのでそう見られてしまうのも仕方がない。
エステラード魔導学院の入学案内を見せるとすぐに謝罪して街を簡単に案内してくれた。
「そして、この中央通りを真っすぐ行った先にあるのがエステラード魔導学院です!」
「こ、ここからでも見える……凄い大きさ……!」
建物のスケールに圧倒されつつ、ミリアは弟たちを引き連れて学園内へ。
入学式はもう明日だ、その前に申請すればすぐにミリア達が住める場所を手配してもらえるらしい。
受付に行くと、赤髪の綺麗な学園職員であるリーリャさんという方が入学案内に記載されていた場所に案内してくれた。
「こちらがミリア様の学生寮になります!」
とても立派な一軒家に案内されると、リーリャは扉を開いてミリアたちに微笑みかける。
弟たちは中に入って大いにハシャいだ。
「すご~い!!」
「ほ、本当にこんなところに住んで良いの!?」
「お姉ちゃんが頑張ってくれたからだね! ありがとうお姉ちゃん!」
ミリアに感謝をする弟たちを見て、リーリャさんは胸が打たれたようで軽く目をこすっていた。
「では、明日の入学パーティには華やかなドレスを着てご出席くださいね!」
リーリャが知らないことを言い出し、ミリアは固まる。
「……入学……パーティー?」
「えぇ、この通り入学案内にも……あれ? ミリア様のには書かれていませんね。どうやらこちらのミスのようです。大変申し訳ございません」
「い、いえいえ! 私も急遽昨日、追加合格させて頂いた者ですから仕方がないと思います!」
そう言いつつも、ミリアは大いに困っていた。
「ですが、私……ドレスなんて持っていませんし」
「姉ちゃん! ドレスがあったよ!」
長男のソラがそう言ってクローゼットを指さす。
その中には確かにとても美しい青いドレスがかかってた。
「す、すごい! こんなに綺麗なドレスまで用意してくださるんですね!」
「え、えっと……そうみたいですね? 恐らく、ミリア様の為にご用意されたモノだと思いますのでそちらを着用していただいてかまいません」
「そうですか! ご丁寧にありがとうございました! リーリャさん」
「はい! 明日は王家のご子息もご入学されるそうなので、ご無礼のないようお気をつけ下さい! それでは!」
深くお辞儀をして部屋を出ていくリーリャさんにみんなお礼を言って見送る。
――その数分後にミリアは受付に戻ろうとするリーリャさんに全速力で追いつき、もう一度頭を下げた。
「……すみません、ドレスの着方だけ教えていただけますか?」
◇◇◇
入学式当日━━。
ミリアは例のドレスを着てエステラード魔導学院の入学パーティに出席していた。
弟たちは安全に預けられる場所がないので学生寮でお留守番をしてもらっている。
「お嬢様、お飲み物をどうぞ」
会場を歩くウェイターに飲み物を勧められ、ミリアは気恥ずかしそうに首を横に振る。
「すみません、私お金がなくて……あはは」
すると、ウェイターは不思議そうな表情をした後に、面白そうに微笑んだ。
「ご心配いりません。この飲み物も、パーティ会場にあるお料理も全てお代はいただきませんから」
「えぇっ!? 無料!? も、持ち帰っても良いかしら? 弟たちにも食べさせたいわ」
「かしこまりました、包むモノをご用意いたしますので少々お待ちください」
ミリアはドレス姿のままガッツポーズをする。
その姿を見て、周囲のご令嬢たちはクスクスと笑い、ご子息たちは呆れたような表情をしている。
それに気が付いたミリアは咳ばらいをして、できるだけおしとやかに会場の料理を自分のお腹の中に詰めていった。
――そんな時、会場の入り口から悲鳴にも似た歓声が聞こえた。
「きゃー! 王家のご子息、グエン・エステラード様よ!」
「はぁ~、こんなに近くでお目見えできるなんて、頑張って入学して良かったわ~!」
もはや涙すら流している彼女たちの目線の先には見た目麗しい高身長の男子生徒がいた。
どうやら彼がこの学園を運営している王家のご子息らしい。
しかし生きるのに必死なミリアにとっては花より団子。
むしろ、変に無礼を働いて退学にさせられないようにミリアは近寄らず、引き続きコソコソとパーティの料理を食べ続けた。
「見て! クローティア家の御令嬢、エリザベス・クローティア様がグエン様のもとに行かれるわ!」
「きっと、ダンスのお誘いよ! あぁ、あの二人のダンスが見られるのかしら!?」
今度はひと際綺麗なドレスを身にまとった女性に注目が集まる。
エリザベス・クローティア、彼女はミリアの姉だった。
忘れもしない、ミリアや弟たちが家から追い出されたあの日。
彼女がありもしないことを散々でっち上げて、お父様やお母さまも味方に引き入れて私や弟たちを国外に追放した。
そんな彼女が自信満々の表情で膝をつき、グエン様と呼ばれている彼に手を差し出した。
「グエン様、お慕い申し上げております。今宵はわたくしと一緒に踊ってはくださいませんか?」
「御令嬢。申し訳ございませんが私にはすでに心に決めた者がいるのです」
エリザベスはグエンに振られてしまった。
ミリアは少しだけ心の中でスカッとした気持ちになる。
エリザベスは放心状態といった様子でしばらくその場から動けないようだった。
「あの、クローティア家のエリザベス様でもダメなの!?」
「一体、グエン様が心に決めたお方って誰なのかしら!?」
周囲はキャーキャー言いながら、より一層の盛り上がりを見せる。
そして、グエンは周囲を少しきょろきょろと見まわした後、ミリアを見て微笑んだ。
流石は王家のご子息、こんな場違いなフードファイターである私にまで笑顔を向けてくれるとは相当に出来た人間らしい。
そんなことを思っていたミリアに向けてグエンは笑顔を全く崩さずにスタスタと歩いてきた。
どうやら、王子様でもお腹は減るようだ。
ミリアが美味しい味付けチキンの前を譲ろうとすると、グエンもエリザベスと同じようにミリアの目の前で膝をついた。
「ミリア様、今夜は僕と一緒に踊っていただけませんか?」
「……は?」
ミリアは思わず、すっとんきょうな声を上げた。
そして、周囲の紳士淑女の皆様が驚きで声を失っている表情を見てもう一度声を上げる。
「はぁぁ!? いやいや、そんなの全然無理っていうか! お、おことわ――」
「――ミリア様」
グエンは立ち上がると、ミリアの耳元でささやく。
「おい、貧乏ウサギ。俺に恥をかかせるつもりか? さっさとこの手を取れ」
「――えっ?」
全然声が違う。
さっきまでの爽やかイケメンボイスとはうって変わって低い地声になっていた。
……しかも、あのクロすけと全く同じ声の。
「ミリア様、改めてご入学おめでとうございます。この手を取ってくださいますよね?」
『ご入学』の部分に不自然に力が入っている。
ミリアにはこの捨て猫王子が言いたいことが分かった。
「不合格のところを俺様の力で入学させてやったんだから、俺様に従え」
こいつは、そう言っているのだ。
「つ、謹んでお受けさせていただきます……」
スパゲッティソースの付いた口角をヒクつかせながらミリアはその手を取った。
「でも、いいの? その……私なんかで」
「アホか、貧乏娘。リンが言ってただろ」
捨て猫王子はハンカチでミリアの口元を拭くと、呆れたようにため息を吐いた。
「拾ったからにはちゃんと責任を持って最後まで面倒をみないとダメだって」
いつかのお返しだとばかりに、グエンはミリアに言い返すことができて、満足そうな表情を見せる。
こうして、ミリアの波乱万丈な学園生活は幕を開けるのだった。
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