9.でかい奴、降臨!!
ああ、なんて不幸なんだろうあたしって。ただ毎日平和にメダカを増やして暮らしたいだけなのに。
異世界転移が義務教育なんて信じられない!
おまけに、あたしだけ人でなく魔王だなんて。
おまけに、おまけに、メダカ同伴だなんて。
今のあたしの最優先課題は、メダカの餌の確保。
何とかしなきゃ・・・
お忍びのはずが凄い事になっちゃった。
段々ドタバタになってきました。
新たな巨大な仲間が加わります。
一体どうなるの?
あたし達は街を出て、街の北側の川に向かった。そこには、確かに砦みたいなものが造られていた。
石と土で造られている蟻塚みたいな感じかな?あの中にダニが巣食っているんだな。
さて、どうするか。人質がいるなら、魔法でどーん!は無理だしなぁ。魔法使えないけど。
こっちには、みのちゃんしか居ないから、ちから技しかないのかなぁ。
基本的に、魔族は出て来れない決まりだから、大っぴらに城から増援呼べないしなぁ。
もっとも、使える増援が居るとも思えないし。
偉そうに出て来たけど、さて困った。人質が居るらしいから、ちから技で突入するのは駄目っぽいし。
奴らだけ、アジトから出て来てくれると助かるんだけど、そうこちらの都合いい様には動いてくれないしなあ。
中の間取りも皆目わからないから、人質だけ先に助ける事も出来ないし。うーむ。
もう、いっその事全力で叩き潰しちゃって、人質さんには『ごめーん』で許してもらう・・・
んな事出来る訳ないしなぁ。
ん、無理!城に帰ろう。誰がやったって無理!出来るならとっくに誰かやってるさ。
そういう訳で、みのちゃんに帰ろうと声を掛けようと振り返ったら、街から出て来る騎馬隊が目に入った。
なぁんか、くたびれた鎧を着ている騎士さんとおぼしき10人程の集団だった。もっとも、先頭の一人だけはまともな装備をしているけど。
真っ直ぐにこっちに駆けて来て、あたしたちの目の前で止まった。
「どうどうどう」
なに、この人たち。なんか文句でもあるのかしら。先頭のまともな鎧に身を包んだ騎士が馬上から声をかけて来た。
「喧嘩を収めたのは、お前達か?」
いきなりお前達呼ばわり?おまけに馬上から?失礼じゃないの?あたしゃ魔王よ?もっとも今は人族に化けているけど。
不機嫌そうに、下から睨みつけていたら、はっと気が付いたのだろう。馬から降りて来た。
「いや、馬上から失礼した。喧嘩を止めに行ったら既に終了していて、くず共を一方的に叩きのめした後アジトに向かったと言うから急いで後を追って来たのだ」
「あいつら、叩きのめして悪かったかしら。あたし、ああいう弱い物いじめする奴許せないたちなんだけど」
あたしは、悪びれもなく言い切った。文句あるならこいつらも叩きのめそうかと思ったその時、
「あはははははは」
あたしはいきなり笑われた。きょとんとしていると
「いや、すまんすまん、元気なおじょうさんで気に入った」
と、笑いながらあたしの肩をばしばしと叩いてくる。
「あいつらは、ほれあの川向こうの砦に巣喰うダニ共だ。殺したって一向にかまわんぞ、どんどんやっちゃってくれ」
へっ?どんどんって・・・
「本来は、我々の仕事なんだが、お恥ずかしい事に、この街の戦力はこれで全員なのだよ。とても対抗できず歯痒い思いをして来た」
「だから、今日の事は実に痛快である。街を代表して礼をいう」
そう言ってこの騎士様は、この小娘に対して頭を下げた。あたしは、毒気を抜かれたと言うか、拍子抜けしたと言うか
目をぱちくりしてしまった。
「ああ、自己紹介が遅れたな。私は、ボディアン子爵家5男、クリストファーという。クリスと呼んでくれ。この街の守備隊長をしている」
ほう、意外とくだけた貴族様だね。あたしの、眉間に出来ていたしわが解消されていた。溝が深く刻まれる前に解消してくれて良かったよ。
「あたしは、まりえ。で、このでかいのが『みのちゃん』だよ」
「みのちゃんとは、また変わった名前だが、先ほど五人相手に大立ち回りをしたのは、、、このみのちゃん殿 かな?」
うんうん、あたしは頷いて答えた。
「体格も素晴らしいしさぞや名の有る剣士もしくは格闘家とお見受けしたが、いかがか?」
やばっ、どう誤魔化そう。考えていなかった。んーんーんーんー やばいやばいやばい
困っているあたしを見て、身分を明かせないのだなと察してくれたのか
「ああ、無理に言わなくてもいい。敵ではないのが解かればよいのだから、色々事情もあるだろう」
と、にこにこしてくれている。申し訳ないねぇ、身分を明かしたらこのまま戦闘になっちゃうからねぇ。
この騎士様、いい人そうだし、爽やかな好青年だから危害を加えたくないし。20代半ばだろうか?
などと、益体もない事を考えていると、急に真顔になった騎士様
「しかし、あの砦に乗り込むのは感心出来ない。確かに壊滅したいのはやまやまなんだが、あそこには武装した荒くれ者が100名以上と
女性の人質が多数いるんでね。いくらなんでも、この戦力では無理だ」
そっか、あたし達を止めに来たのね。うん、あたしも帰ろうと思っていたから丁度いいかな。帰る口実が出来たし。
「うん、わかった帰る」
あたしは、速答した。ついでに気になった事を聞いてみた。
「この街って、魔物の城と接している言わば最前線じゃない、なんで、もっと多くの軍隊を置かないの?魔族が侵攻して来たらやばいんでない?」
騎士様は、あたしが聞き分けがよいので安心したのか、すんなり答えてくれた。
「あの、魔族の城には、ほとんど魔族がいないんですよ。居るのはカスばかり」
あ、みのちゃんの肩がぴくっと動いた。やばい、地雷踏んだか?
空気が読めないんだか、気が付かない騎士様はさらに続ける。
「弱い魔物ばかりなので、ご心配なく。何かあっても我々で対処出来ますので」
まずいまずい、みのちゃんが爆発寸前だぁ。早く帰ろう、早く帰ろう。
と、その時 くるっと後ろを向いたみのちゃん、突然砦へ向かってダッシュしちゃったじゃないのーーーー!!!!
命令無視だぞーーーー!! 気持ちは判らないでもないが。
我々は、あっけにとられてただ見ている事しか出来なかった。
一瞬で川のほとりに到達したみのちゃん、一気に川を渡ろうとした瞬間、停止して上空を仰いだ。
おやっ、どうしたのかなと思ったその時、急にあたりが真っ暗になり強風が吹いてきて驚いた馬達は立ち上がってしまい、馬上の騎士達は馬から転げ落ちてしまった。
あたしも、飛ばされない様にしゃがんで、何が起きたのかと上空を見上げた。
その瞬間、物凄い地響きと一面に舞い上がった砂埃であたしは転がってしまった。
ほこりまみれになりながら、起き上がったあたしの目の前に巨大な目、いや顔があった。
見つめ合ったまま、永遠と思える様な時間が過ぎた 感じがした。
そいつは、軽自動車程の頭。頭には4本の角と鋭い牙。全身メタリック調の黒い鱗に覆われており、長い尻尾と、背中には蝙蝠のような黒い羽。四本の太い脚。
あたしの拙い知識でも、これは解かるぞ。何でここに居るのかは解らないけど、こいつの名前だけは 解る。解りたく無いけど解る。
こ こいつは、ドラゴンだっ!!!!!!!!
魔物の中でも最強の部類にあたるドラゴンだっ!!!
あたしは、パニックに陥り、思いっきり叫びたい衝動に駆られた。騎士達も身動きが出来なくなっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こ この恐怖の時間はいつまで続くのだろうか・・・
あたしの神経、図太いと言われている神経も、もう持たない!失神してもいいかな?だれか、いいって言って~~~~(泣)
あたしの目玉が白目を剥こうとした瞬間、雷が落ちた様な大きな超重低音の声が脳天に響いた。
「アタラシイ マオウサマハ アナタカ」
あたしは、恐怖と絶望とショックと理解出来ない現状に、固まっていた。何も考えられない。
「アタラシイ マオウサマハ アナタカ」
再び、大音響が響いた。ドラゴンは、正面からじっとあたしを見つめている。
なんでだろう、不思議にその眼差しには温かみを感じられた。
やさしく見つめられている様な感じすらした。
あたしは、ドラゴンさんの鼻先につかまりながら立ち上がった。そして、その目を見返しながら
「うん、あたしが新しい魔王みたい」
そう、答えた。あたし、すごーーーい。ドラゴンと話ししてるー。
後ろを見回すと、騎士達は驚愕の表情で固まっていた。みのちゃんはゆっくりとこちらに歩いて来る。
主を守らずに、安全となったら寄って来るとは、いい根性をしている。
「アタラシイ マオウサマキタ ワレ アイサツニ フルサトノシマカラトンデキタ」
ふむふむ、何となく解った。律儀なドラゴンさんなんだね。そして、あたしの正体がばれた事も解った。
さて、どうしようか。
「ドラゴンさんは、あたしの配下っていう事なのかな?」
とりあえず、一番大事な事を聞いてみた。
「ワレ マオウサマノ シジニ シタガウ」
さて、次に解決すべき問題は。あたしは、振り向いて騎士様達に尋ねた。
「あたしの正体はばれちゃったみたいだけど、どうする?退治する?あたしは、人間に危害を加える気はないんだけど
あ、あいつらみたいな害虫は別ね」
騎士様達はお互いに顔を見合わせて何やらささやいているみたい、結論はでたかな?
「我々には、対抗すべき力がありません。降伏します。その代わり街には手を出さないでいただけますか?」
さっきと随分と口調が変わってしまったが、致し方無し か。
あたしは、出来るだけ、出来るだけ、優しくソフトに笑顔で切り出した。
「提案、と言うかお願いがあるのだけれど、聞いてもらえますか?」
騎士様達、声も出ずに無言でこくこくと頷いている。快く聞いて貰えるようだ。
「お願い、その1。今ここで起こった事は綺麗さっぱり忘れてほしい。あたしの正体も当然ね」
こくこくこく
「お願い、その2.これから起こる出来事に目をつぶっていて欲しい。出来るなら、協力して貰いたい」
こくこくこく 10人綺麗に揃って頷いている。これってユニゾンって言うんだっけ?知らないけど。
なんか、猫じゃらしを目で追う子猫の群れみたいで、おっかしぃ(笑)
何の協力か聞かないで頷いていいんかいっ(笑)命くれって言われたらどうするんだよー。
なんだか憎めない騎士様達に、思わず顔がほころんでしまったあたしが居るんだなぁ。
初めての作品になります。
本作品ががあなたの興味を引いて頂くものであれば幸いです。すごっく嬉しいです。
誤字・脱字は、ふふって笑ってやってねー。(笑)
気楽に勝手気ままで怖い物知らずなヒロインです。
暖かく見守ってやって下さーーい。
P.S.
我が家で産まれたメダカの稚魚が900匹を超えました。(笑)
水槽がたりませーん!やばいです。
ちなみに、ブリーダーではありません。