1.それは突然あらわれた
ああ、なんて不幸なんだろうあたしって。ただ毎日平和にメダカを増やして暮らしたいだけなのに。
異世界転移が義務教育なんて信じられない!
おまけに、あたしだけ人でなく魔王だなんて。
おまけに、おまけに、メダカ同伴だなんて。
どうせなら、圧倒的な戦力をくれーーーっ!!
使える部下が2匹だけなんて。ぐれてやるーーーーっ!!
4月に入って間もない、ある朝の出来事だった。
あたしは、見覚えの無い全面石造りの部屋の、見覚えの無いベッドの上で、両手を前に突き出したまま
現状を理解できずに固まっていた。
寝ていたら、突然大音響とともに、巨大な人型の何かが何かを叫びながら突撃してきたから。
突然、突撃して来たから、、、、
あたしは、17歳の普通の女の子のあたしは、インドア派でろくに運動もした事のないあたしは
筋肉もろくについていない華奢なあたしは、反射的に突撃して来た誰かを思わず突き飛ばしていた。
だって、乙女の寝室?に、突然叫びながら乱入してくるなんて非常識でしょ?
普通、有り得ないでしょ?だから、あたしは悪くない!!
断じて悪くないっ!
たとえ、侵入者があたしに吹き飛ばされても、吹き飛ばされて10メートル向こうの石の壁に轟音をたてて激突したとしても
その石の壁を粉砕しながら突き抜けても、あたしは悪くないっ!!
・・・・・・・・・・・・・・・
吹き飛ぶ? 粉砕?あたしが突き飛ばした? ドウイウコトデスカ??
あたしのようりょうのすくないおつむは、じょうきょうをしょりしきれずに、ふりいずしていた。しょりしきれないから
ひらがなになってしまっている。いちぶカタカナだが・・・
さらに、がれきのなかからたちあがってきたしんにゅうしゃは、うしのあたまをしていた。
ありえないでしょ!! ありえないでしょ!? だれかせつめいしてくださーーーーーーーーい(泣)
時間を巻き戻そう。
その日の朝、あたしは前日夜更かししたせいか、まだ眠かった。
まだ眠いが、あの子達は待っててくれない。
朝食が待ちきれずに,ばちゃばちゃと水面を叩きながら餌の催促をする音に目が覚めた。
ま、毎日の事でいつもの朝の情景だった。今日も元気で嬉しいヨ。
あ、あの子達と言っても人間の子供ではないよ、あたしの可愛いメダカ達だ。
あたしは、メダカを飼っている と言うかメダカに飼われていると言った方が正しいかもしれない。
元々は何気にネットを見ていて、10匹程衝動買いをしてしまったのが発端だった。その内、いろんな種類のメダカちゃん達に魅了され,少しずつ、ホントに少しづつ買い足して、水槽も買い足して、いつしか繁殖にも喜びを覚えてしまい更に水槽を買い足して現在に至る。
お前はブリーダーになるのか?と、両親は呆れ顔。
親が40匹ずつ入った60センチ水槽が20個。卵の孵化用の2リットル水槽が20個。
孵化した稚魚(針子)を育てる90センチ水槽が20個。品種ごとに分けてあげないと交雑して種が雑じっちゃう。
床の上には、子供達の餌用にゾウリムシの入った2リットルのペットボトルが50本に60センチのクロレラの培養水槽が3つ。
ペットボトルは、毎晩酸素を供給するため1時間以上をかけて攪拌している。クロレラ水槽も毎晩柄杓でかきまわしている。
親が約800匹。育った二世が900匹ちょっと。産まれたばかりの稚魚(針子)が約1200匹。総勢3000匹弱。物凄い数になっている。
部屋の中は水槽で足の踏み場もない状態だ。何でこんなになってしまったのかと考えない事もないのだが、増えてしまったのだからしょうがないね。
水槽は、金属のラックに3段に積んであるが部屋の壁面をほぼ占領している。かなり密集飼育になって来たので、そろそろ水槽を増やしたい。
当然、年頃の女の子の部屋にあるであろうアイドルのポスターなんてないし、貼る場所も無い。興味も無い。新種のメダカのポスターなら欲しいかも。
親は、その情熱を勉強に向けてくれればと、毎日ぼやいているが、あたしは気にしない。それなりの成績取ってるもん。
メダカの朝ごはんが終わってからあたしの食事の時間というのが毎日のルーチンである。
当然メダカ様優先である。
朝の6時ちょっと過ぎ。カーテンを開けると空はまだ薄暗い。今日は曇りかな?まだ少し寒いのでカーディガンをはおった。
早朝から出勤して来たスズメがベランダでにぎやかにさえずっている。最近絶滅危惧種に指定されたらしいが、まだ家に遊びに来てくれている。
授業には早過ぎるのだが、腹を空かせているあの子達を思うと寝てもいられない。部屋の電気をつけると水槽の中が慌ただしくなる。
餌の入ったボトルを水槽の前でフリフリすると、我先にと水面に集まってくる。順番だからねー、少し待っててねー。
餌を持って40個の水槽を順番に回る。早く早くとにぎやかだ。
可愛い!ひたすら可愛い! 母性本能をくすぐられる瞬間だね。
あたしの名前は、、、ま、そんな事はどうでもいい。個人情報の観点からも名乗る必要もないだろう。そもそも誰に名乗るっていうんだ?
とにかく、いまの最優先事項はメダカ達の朝ごはんだ。
親には、フレーク状。子供達には微細粉末の餌。もちろんビタミンや酵母入りね。
食事の間だけろ過器の電源を切って、食べ終わったら再びONにする。
後で、水換えしなくっちゃ。今日は、魔王1号から5号水槽の日だったねー。もう少し待ってねー。
やることいっぱいだー(笑)
「まりえー、ご飯よーっ!早くしないと冷めるわよーっ」
「はい、はい、はーい、今行くーっ」
せっかちな母様だから、行くまで呼び続ける・・・
こうして、相も変らぬ一日が始まる はずだった。
なぜ、あんなことになったのかは、知る由もない。
なぜ知る由もないかは、知る由もない。
なっちゃったんだからしょうがないよ。
初めての作品です。
本作品ががあなたの興味を引いて頂くものであれば幸いです。
誤字・脱字はご容赦のほどお願い致します。