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ハルが家に着くと、窓越しにサティとロゼが楽しそうにしているのが見えた。
お昼ご飯前のこの時間、二人はたまに女子会を開いていることがある。
ハルは美味しいお茶とお菓子を楽しんでる二人のことを羨ましがり、自分も参加したいと言ったことがあるが、ロゼから『これは女子会だから、男子は参加できないんだ』と諭されたことがある。
もちろんハルはそれで納得はできなかったが、サティが少し困った顔をして『ハル、ごめんね。 お菓子を分けてあげるから、向こうでリーナちゃんと食べてらっしゃい』と言ったのを見て、それ以上のわがままを言うのを止めた。
ハルは少し時間を潰そうと、家の裏にある畑に向かうことにした。
二人が中で女子会をしている時は、リーナがそこにいることが多いからだ。
リーナは畑の横に広がっているお花畑が好きで、よく花輪を作って遊んでいる。
ハルがそこに行くと案の定、リーナがお花畑の真ん中に座り込んで何かを作っている所だった。
リーナは作業に集中しているのか、ハルの接近に気が付いていない。
それを見たハルは悪戯心に掻き立てられ、ちょっと脅かしてやろうと思った。
一歩、二歩、三歩と、忍び足でリーナの後ろに近づいて行くハル。
そして一歩分だけ間を置いて、大きな声を出した。
「わっ!」
「ひゃわっ?!」
リーナは驚いて、持っていた作りかけの花輪を真上に放り投げてしまった。
花輪はゆっくりと落ち、リーナの頭の上に斜めに乗っかった。
リーナは驚きのあまり声も出ず、涙目で恨めしそうにハルの方を見つめた。
「うぅ~~~!」
「ご、ごめん! そこまで驚かせるつもりじゃなかったんだ!」
流石にハルはバツが悪いと思い、すぐにリーナに謝った。
しかしリーナは目を潤ませたままフルフルと頭を横に振り、ハルのした仕打ちについて尚も訴えている。
ハルはどうしたらいいのか分からず、頭をポリポリとかいて悩んだ。
「おーい、さっき変な声が聞こえてきたが何かあったのかー!?」
さっきのリーナの叫び声に異変を感じたロゼが、慌ててこっちに向かって走ってきた。
ロゼの姿を見つけたリーナは急いで駆け寄り、ロゼの後ろに隠れてしまった。
「おいおい、どうしたんだ?」
「うぅ~~」
ロゼは視線の先にハルがいるのを見て、またかという表情で肩をすくめてため息をついた。
「みんな大丈夫~? ・・あらハル、帰ってたのなら中に入ってこれば良かったのに」
ロゼの後からのんびりとやってきたサティは、マイペースにこの修羅場に割って入ってきた。
そんなサティに、ロゼは言葉をかいつまんでこの状況を説明した。
「あー、いつものハルの悪戯だから大丈夫だろ?」
「あら、そうなの? 好きな子を虐めたくなるのは分かるけど、ほどほどにしないと嫌われちゃうわよ?」
「ぼ、ボクそんなつもりじゃ!」
「むぅ~・・」
顔を真っ赤にして反論するハルにリーナは少し頬を膨らませると、真っ白な肌が少しだけ赤くなった。
そんな様子をロゼは呆れるように、サティは微笑ましく見ていた。
「そうだロゼさん、折角だから今日のお昼、一緒にどうですか?」
「お、いいね! サティの飯は美味いからな」
サティの急な提案にロゼは尻尾をブンブン振って感情を表したが、リーナはさっきのことがあったせいか、少し困っている様子だった。
それを察したロゼは、感情を押さえて改めてサティの提案に答えた。
「あー・・・っと、食べていきたいのは山々なんだが、ちょっと残してきた仕事があってな」
「あら、そうなの? じゃあ、家で食べられるように包んであげるから、ちょっと待っててね」
「ああ、そうしてくれると助かるわ」
ロゼの答えにホッとしたのか、それとも残念に思ったのか、リーナは少し複雑な顔になった。
一方、事態が何とかうやむやになったことに一安心したのか、ハルはどっと疲れたという感じを出した。
もちろんそのことをロゼが見過ごすはずも無く、一言忠告を入れる。
「ハル、リーナはちょっと臆病な所があるんだから、あんまりからかうんじゃないぞ?」
「う、うん」
「ハル、返事をする時は”はい”だって教えただろ!?」
「は、はい! 分かりました師匠!」
ロゼの喝に、丸まっていたハルの背筋がピンと伸びる。
「よし! それと、謝るのはアタシにじゃなくてリーナにな?」
「はい! さっきは驚かせてごめんね、リーナ」
「う、うん・・」
「よーしよしよし、じゃあ仲直りの握手だな!」
ロゼは後ろに隠れていたリーナをハルの前に引っ張り出し、強引に手を繋がせた。
ハルとリーナは少し恥ずかしそうにしていたが、お互いの手の温もりをしっかりと感じていた。
「やっぱ家族は仲が良くないとな! んじゃ、サティの所に戻るとするか」
「はい」
「うん」