3 記憶持ちである事を理解しました。
男性についていくと、森を抜けた。
男性達の話によると、ナタリーは随分と王城の城下町の近くまで来ていたようだ。
「ナタリー様、こちらが都市のエンゴットでございます」
森の静かさとは違い、城下町は人で栄えていた。
市場のような掛け声もそこらかしこから聞こえてくる。
街の見学もそこそこに、男性達はさっさと城へ向かっていく。
初めて街を見た私が城へ向かっていると瞬間的にわかるほど、城は大きく、白く、近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
それでも、私と同様に城に似合わない服装に身を纏っているはずの男性達は気にせずどんどんと進んでいく。
城の敷地内である庭に入るとすぐに城の中から執事のような人が出てきた。
私を城まで案内してくれた男性のうちの一人が執事と話をする。
そこからは早いものだった。
気がつくと意匠性のある部屋に通され、メイドによる風呂の手伝い、怪我の手当、ドレスの着替えが行われた。
鏡に写ったナタリーの身体は22歳くらいで、淡い紫の髪に、紫の目をしていた。
綺麗に着飾れていて森にいそうな女性は一人もいなかった。
森で出会った男性達は知らない間にいなくなっていた。
部屋で待機していると、王様に応接間へ呼ばれ、面会した。
王様は長髪の中年で、日本人のような黒髪黒目だった。王様の斜め後ろに他の執事達とは違う服装をした男性が立っていた。
「ようこそ、我が国エンゴットへ。我が名はマリス•エンゴットだ。国の名を背負った大層な名前だが気を休めて座るが良い」
「ありがとうございます。私は、ナタリーと申します。信じていただけるかはわかりませんが、私はどうやら異世界転生をしてしまったようです。しかし私は身体を奪ってしまったナタリーの代わりにもこの名で生きていこうと思っております。」
木梨リンという名がこの国で受け入れられるとは信じ難い。そういう思いもあるがあえては言わない。
私は礼を会釈にすませ、マリス様の前に座った。
「彼はバースだ」
「よろしくお願いします」
自己紹介もほどほどに私はマリス様からこの国についての説明を受けた。
マリス様によると、マリス様の後ろに立っているバースも私と同じように地球からの転生者であり、神の使いの聖人という立ち位置にいるらしい。
異世界転生は100年に1度ほどであるらしく、決して珍しい事ではないが2人同時に国にいる事は初めてだと言っていた。
森で私を見つけた五人の男性はこの身体であるナタリーと同じ村で生活していて、神を信仰している者たちだとも教えてくれた。
この国では魂の輪廻転生が信じられていて、前世の記憶がある人を”記憶持ち”と呼び、私や他の異世界転生者は異世界の知識や技術を授けてくれることから、神の使いと呼ばれるのだとか。
道理で、ナタリーじゃなくなったと気付いたときに尊敬の目で見られたわけだわ。
不思議と、記憶持ちであることを疑われることがなかったまま、あれよあれよと城の近くの屋敷を用意してもらい、生活の保証がある代わりに神の使い、つまり聖女として働く人生が始まった。
さらにはナタリーの身体には魔力があり、魔法の練習もさせてもらえることになった。
中身は私だが、身体はナタリーのままなので異世界転生者だからといって特別な魔力はなく、使える魔法も一般的らしい。
魔法で誰かを助けると言ったことは必要なく、魔力を持たない者も多くいるこの国ではその者たちの生活水準をあげるための知識が必要なのだと言っていた。
お祈り、助言、国についての勉強、魔法の勉強を繰り返し、マリス様とお話をする中でマリス様の心にも触れた。
同じ転生仲間であるバースに教えてもらうことも多くあったが、王様であるマリス様とは特に良く話した。
見た目年齢でも20歳近く違うだろうと思われるマリス様との時間は、恋愛ではない感情が生まれていた。
深い深い夢のような実体験のように駆け巡った私の記憶の中で私は殺されるまで聖女であり続けていた。
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「……エマ…」
母が呼んでる気がする。今の、エマに必要な母が。
前回の私は転生者として、ナタリーの人生を奪い、神に仕える聖女として人生を終えた。
生きていく上で保証された生活ではあったけれど、OL時代と同じように自由なんて感じなかった。
私は自由を知りたい。
人生に決まりの無いこの世界で、私は囚われることのない生き方を知りたい。
そして、エマの代わりに生きなければならない。
エマであり続けなければならない。
前回の転生と違うことは、前回はナタリーの記憶が無かったが、今回はエマの記憶があることだ。
エマが今まで築き上げた信頼や人間関係を崩さないために、自由を知るために、
私は”記憶持ち”であることを隠すことに決めた。