予想外の出来事
真っ直ぐ私と向き合うユーエンから目を逸らさず、どんな返事が返って来るのかを待つ。
でも‥さっきからずっと黙ったまま、まるで人形みたいに動かないんだよねー!?
ええと、格下の男爵家風情が生意気な口を!って怒ってるのかな?
よく見ると眉間に皺が寄っているし。
でも、このまま突っ立っている訳にはいかない。
怒るのは想定内だもの、とにかく返事を聞かなくちゃ!
「あのー‥アスベル卿?」
私の声に反応したのか、ユーエンはピクリと肩を動かした。
「‥理由‥」
「はい?」
「‥理由を‥聞かせて欲しい」
えっ!?やっと口をきいたと思ったら理由って、そんなの貴方の態度以外ないでしょうに!
なんて言う訳にもいかないから、婚約してから貶されて来た、一番の理由を挙げてみる。
「え〜とですね、まず私とアスベル卿とでは、世間一般的に見て釣り合わないんですよ。ご覧の通り私は地味ですし、お相手として相応しくないかと思います」
「‥地味?どこら辺が?」
ユーエンは何故かキョトンとした顔で、予想もつかない質問をして来た。
いや、何ですかその質問?
アレですか?私に地味さをアピールさせて、「その通りだ」とでも言うつもりですか?
一目見れば分かるでしょうに、この自他共に認めるクイーンオブ地味っ子ぶりは。
いっそのこと「この地味さが目に入らぬか!」なんて言ってみるべき?
やらんけど。
「世間一般的に見た、私の評価です」
ドヤッ!とばかりにきっぱり言い切る。
自慢出来る物じゃないけどね。
「その評価はおかしい」
「はい?」
おかしいって、何が言いたいんだこの人は?
理解に苦しみ思わず首を傾げていると、ユーエンは真面目な顔で言葉を続けた。
「俺はそんな風に思わない。だから気にしないでくれ」
「は、はあ‥」
えーと、これは慰められたのか?
地味のワンランク上の、普通認定なのか?
「‥だから釣り合わないなどという事はない。君が言った理由は、当事者の意見が反映されていなかった」
えっ!?待て待て待て!理由については問題無しの方向に進んでない?
「で、ですがアスベル卿、私には公爵夫人など務まりません!」
「父が元気な間は、俺が家督を継ぐ事はない。幸い父は健康だ。時間はたっぷりある」
こ、これは‥どういう事?
じっくり学ぶ時間があるって事かな?
けど、相変わらず要点だけを話すよねー。
このままじゃ埒があかないわ。
やっぱりオブラートに包まないで、はっきり言うしかないでしょう!
「理由はそれだけではないんです!関係性に疑問を感じました」
「‥関係性に疑問?」
「はい。先程挨拶をしてからここへ来るまで、アスベル卿は私を、好んでいらっしゃらないと感じました。ですから良好な関係は築けないと思ったのです」
うん、言ってやったわ!
これだけはっきり図星を突かれれば、返す言葉もないでしょう?
だって私を嫌っているという事実は、解決しようがないんだから。
「‥すまない」
「は、はい?」
「そんなつもりはなかった。誤解を与えた様だ‥すまない‥」
「は、はあ‥」
謝った?謝ったよね!?
しかも頭まで下げてるし!
「どうすればいいのか、教えて欲しい」
え、ええ〜!!
教えてって‥ちょ、何か話がおかしな方向へ転んでるんですけど!
心なしかシュンとしてる様に見えるんですけど!
ど、どうしよう!?
はっきり言ったらそれで終わりの筈だったのに、結局元の流れへ戻ってる気が‥
ただ、謝ったり、シュンとしたり、誠意を見せてくれるユーエンに、これ以上難癖付けるのは気が引ける。
今の段階で、他に理由も思い付かないしね。
「‥分かりました。ではまず、顔を背けるのはやめて下さい。初対面でこれをやられたら、流石に傷付きます」
多少生意気な言い方をしたけど、ユーエンは素直にコクリと頷く。
そればかりか、私の言葉を一言一句聞き漏らすまいと、熱心に耳を傾けている。
その姿が、何だか従順な犬の様で、頭の上に耳が生えている幻まで見えてきて、思わず私は目を擦った。
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