表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言わせて貰います!  作者: 栗須まり
4/12

未来という過去3

何が起こったのか分からないけど、さっき衝撃を受けた部分が酷く痛む。

それに息苦しさも感じて、大きく目を開けると、飛び込んで来たのは思いもよらない場所だった。

まだボーっとする頭に、時々襲って来る痛みが意識を繋ぐ。

段々とはっきりして来る頭が、どうやら私は殴られて気を失っていたのだと理解する。

そして庭園とは違う別の場所へ、輸送されているのだという事も。

何故なら目に映る景色は、お世辞にも普通とは言えない程ボロボロの馬車の室内で、ガラガラと音を立てながら、進んでいるのが分かるからだ。

おまけに手足は縛られ、声を出そうにも口元は布できつく縛られている。

察するに私は‥何者かによって襲撃され、拉致されたといった所か。


いや、ちょっと待って!えっ!?これってどういう事!?

訳が分からず軽くパニックに陥り、必死にもがいてはみたけど、逆に縛った縄が食い込み、更なる痛みを呼んだだけだった。

仕方なくじっとして様子を窺う。

向かいの座席には破れた穴からスプリングが覗いており、足元は擦り切れて床の塗装が剥げている。

念の為手足を縛った縄を切る物が無いかと、隅々まで見てはみたけど、それらしい物は見つからなかった。


こうなると‥焦るよねー!

だってさ、何の目的で攫われたのかも分からないし、この扱いを見る限り、この後の展開が最悪な物しか想像出来ないんだもの!

例えば人買いや娼館に売られるとか、或いは殺されるとか‥

想像しただけで物凄く怖い。

とにかく何とか逃げなくちゃと頭を捻っていると、馬車は急に速度を落とし、暫くすると停車した。

私は何が起こるのか身構え、入り口のドアに集中する。

すると突然ガチャリと乱暴にドアが開かれ、小太りの男が顔を覗かせた。


「おや、お目覚めかいお嬢ちゃん。丁度いいな。今、ちょっくら可愛がってやろうかと思った所だったからよ」

「ううっ!!」

悲鳴を上げたつもりでも、口元の布で呻き声にしかならない。

「へへっ‥。こんな汚れ仕事だからよ、売り飛ばす前に味見したって、バチは当たらねぇだろう?なぁに、ちいと我慢すればすぐ終わるさ。これからは毎日する事だからな」

下品な笑いを浮かべる男のセリフから、私をそういう所へ売るつもりである事を知る。

やっぱり想像した通り、最悪な展開だったのだ。

それなら一縷の望みにかけるしかない。

私は体から力を抜き、ぐったりした体を装った。

予想通り男は、私が完全に諦めたと思ったらしく、口笛を吹きながら足の縄を解いていく。

縄が完全に解かれ、男が足に触れた時「今しかない!」と思った私は、渾身の力を足に込めた。

ガツン!!

男の顔面目掛けて蹴り上げた踵は、顔の中央にある鼻にクリーンヒット!

幸いこの日はストラップ付きのヒールを履いていたので、脱げずにしっかり足に固定されている。尖ったヒールの先は、結構なダメージを与える事が出来た。


「グワッ!!」

油断していた所に踵をお見舞いされた男は、為す術もなく外へ転げ落ちて行く。

この隙を逃してたまるか!

そう思った私は、自分でも信じられない程素早く起き上がり、馬車の外へ飛び出した。

所謂火事場の何とかってやつ!?

案外冷静に行動してる自分に驚いたわ。

とはいえ未だ危機的状況な訳で、今動かせるのは縄を解かれた足のみだ。

とにかく男が復活する前に、出来る限り遠くへ逃げるしかない。

外に広がる真っ暗な闇の中を、私は無我夢中で走り出した。

走って気付いたのは、道が石畳ではないという事。

凸凹した土の感触から、整備されていない田舎道を走っていたのだと気付いた。

どうも一本道の様で、次第に暗闇に慣れ始めた目が、左右に木立のシルエットを捉える。

木立の中の方が見つかりにくいのでは?

そう思った私は、左側の木立の中へ入って行った。

後方からは男の声が近付いて来る。

捕まったらおしまいだわ!

木立の間に降り積もった落ち葉が、走るスピードを削いで行く。

時々引っかかるドレスの裾が、無駄に体力を消耗させたが、足を止める訳にはいかなかった。


「おい、待て!その先へ行くな!」

男が叫ぶ声が聞こえる。

声の様子から、男がかなり近付いて来ていると分かったので、力を振り絞って先へ進んだ。

大体こんな状況で、待てと言われて待つ訳ないでしょ!

喉の奥では血の味がして、とうに限界を超えているけど、逃げるしか選択肢は無いんだから。

足に力を入れて一歩を踏みしめ、私は前へ前へと進み続ける。

すると突然、足元にある筈の地面の感触が無くなり、フワリと体が宙に浮いた。

かと思ったら、今度は下へ真っ逆さまに落ちて行く。

上の方からは男の叫ぶ声。

その声で、私は崖から落ちてしまったのだと、全く予想しなかった、最悪な展開に陥ってしまった事を知ったのだ。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ