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言わせて貰います!  作者: 栗須まり
2/12

未来という過去1

あれは昨日の夜の事。

と、言っても今より2年後の昨日なんだけど、王宮で建国記念日を祝う舞踏会が催され、私は父と参加していたのよ。

うん、そうだよね、突然何を言い出すの?って感じだよね。

でも、私自身もまだ混乱していて、順を追って整理していかないと、頭がどうかしてしまったんじゃないかとパニクってしまうから、私に起こった事を追っていこうと思う。


さて、舞踏会の話の続き。

この時の私の立場なら、婚約者同伴で参加するのが普通なんだけど、この日は私の婚約者は仕事で、母に勧められた父が代役を務めてくれたのだ。

因みに母は姉の体調不良を理由に欠席。

本当は只の社交嫌いなんだけどね。

私の婚約者‥実はこのユーエンの事。

初顔合わせから1週間後に正式に婚約を結び、学生だった私の事情を考慮して、卒業する18歳の夏に結婚する事が決まっている。

まあ、ユーエンの方も家督を継ぐまでは自分の力を試したいとの事で、国内きってのエリート士官学校を卒業した後、王太子殿下の護衛騎士団『銀獅子団』に入隊しており、中々多忙な日々を過ごしている事も、2年後に決まった要因でもあるんだけど。

つまり、2年後には出世の道が約束されていて、身辺も落ち着くという訳だ。

で、こういう王家の参加する行事には、当然王族の警護を担当する為、私のパートナーは務められない。


はい、どこまでも出来過ぎ君な婚約者ですよ。

エメルダ譲りの黒髪と瞳に、彫刻の様に整った顔立ち、加えて文武両道とくれば、私なんかでは逆立ちしたって釣り合いっこないって事は、誰だって思うよねー。

て事で、婚約が決まってからの私は、お茶会だなんだと招待される機会が多くなったのだけど、その中の招待を受ければ、やっかみから辛辣な言葉を浴びせられる‥なんて風に日常が変化した。

まあね、仕方ないとはいえ、かなり辛い思いをしたわよ。

4大公爵家の一つ、アスベル家の嫡男で、非の打ち所がないユーエンは、若いご令嬢達の憧れの的ですから。


だから私だって頑張ったのよ。

長期休暇の度にアスベル公爵家へ出向いては、未来の公爵夫人となるべく教育を受けたし、学校でも結構優秀な成績を収めている。

つり合わないと言われている分、努力で出来る事はカバーしたつもり。

だけど、努力してもどうにもならない事はある。

ユーエンとの関係性は、この初顔合わせの時から特に進展する事は無く、ずっと他人行儀なままだった。

月に一度、両家が決めた二人でのお茶会なんかは、殆ど会話もなく過ごしたし、時々彼は仕事を理由に欠席する事もあった。

「あ、嫌われているなこれは」ってすぐに分かったわ。

それなら婚約破棄してくれればいいのに!

家格が下の我が家からは、とてもじゃないけどそんな事言える立場じゃないんだから!

いくら家同士の取り決めでも、ユーエンが望めば破棄する事が出来るんだからって、何度も思ったもの。

でも、そうされたらされたで、悲しい気持ちになるだろうなと思う私もいた。

なんというか私は、密かに淡い憧れなんかを、抱いたりしていた訳だ。


という事で、もやもやした毎日を過ごしていたのだけど、この舞踏会に出たお陰で、色々と分かった事がある。

この頃の私は卒業を間近に控えていて、結婚式の準備やら卒業試験の勉強やらで忙しく、社交関係に顔を出す暇など無かった。

だから久しぶりに出たこの舞踏会で、まさかあんな話を聞かされるとは思わなかったのだ。


「こんばんはリリア令嬢。いつ頃婚約破棄をなさるのかしら?」

近付いて来た一人の女性が、嘲笑混じりに私に話しかける。

顔を見て"あ、嫌な人に会ってしまった"と、思った時には遅かった。

この人は一学年先輩に当たる、ソラーリ侯爵の長女ウルセラ嬢だ。

女王様気質のこの人は、自分より家柄も容姿も劣る私が、ユーエンの婚約者として注目を浴びるのが気に入らなかった様で、学校でもこういった場でも嫌がらせを続けて来た。

身分制度に関係なく学べる場所である学校でも、何かと身分を誇示し続けていたのよね。

父が知人の元へ行き、私が一人になったタイミングで、嫌味攻撃を仕掛けて来たといった所か。

ただ、いつもと違うのは、取巻き連中を引き連れていない事。


「こんばんはウルセラ様。珍しくお一人なのですね」

当たり障りのない返事や、表向きの仮面は慣れっこだ。

こういうのは相手にするだけ無駄だって事は、嫌と言う程知っている。

「それはそうよ!こんな楽しい話、誰よりも先に聞きたいじゃない?」

クスクスと笑いながら見下した態度に、さっさとやり過ごす方法は無いかと、知恵を絞って口を開く。

「あの、ウルセラ様を喜ばせる様な話題は、生憎と持ち合わせておりませんが‥」

「あら、正直に話してくれれば結構よ。いつ婚約破棄をなさるの?」

「何を仰っているのか私には分かりません。その予定もありませんし、そんな話も出ていません」

「まあ!貴女‥そうね、最近はこういった場所で顔を見かけなかったもの、何も知らないのも仕方がないわ」

もったいぶった言い方に、少し苛立ちを感じながら、努めて冷静に返事を返した。


「そうですね。ですから、ウルセラ様のお相手は務まらないと思います。失礼させて頂きますわ」

クルリと背を向けその場を去ろうとした私の腕を、ウルセラはぐっと掴んだ。

いつもならここまでしつこく絡んで来ないのに、この日の彼女はどうにもしつこい。

流石に腹が立って来たので、低めの声で問いただした。

「あの、何か言いたい事があるのでしたら、はっきり仰って頂けますか?」

「フフッ!やっと興味を示したわね。何も知らない様だから、先輩として教えて差し上げるわ。今日の来賓の中に、隣国エルトリアの王女、ミリアム様がいらっしゃるのはご存知よね?」

急に何を言うのかと思ったけど、どんな方だったかを頭に浮かべてみた。

ミリアム王女‥確か国王陛下の妹姫が嫁いだのがエルトリアで、その姫君となると王太子殿下には従姉妹に当たり、陛下にとっては姪となる。

非常に近しい関係だから、招かれるのは当然だろう。


「時間に余裕が無く確認はしておりませんが、ミリアム王女様がどうかなさったのですか?」

「まあ!貴女って本当に呑気なのね!そんな様子だから2年間も利用されるのよ。本当、可哀想だわ貴女!」

利用?何が言いたいのだこの人は?ムカムカしながらどうせ碌でもない話であろう事は想像がつくけど、先を聞かないとどうにも離してくれないらしく、ウルセラは尚も話を続けた。

「2年前、エルトリア訪問中の王太子殿下の警護に就かれたユーエン様に、ミリアム王女は一目惚れをなさったんですって。でも、エルトリアにはミリアム王女以外のお子様がいらっしゃらなかったし、ユーエン様も公爵家の嫡男という立場上、隣国へ婿入りする訳にはいかなかったと聞いたわ。ところが1年前、エルトリアには待望の王子が産まれ、ミリアム王女は女王になる必要がなくなったのよ。そこで一年がかりでエルトリア国王や、我が国の国王陛下を説得して、お二人の縁組みの話を進めて来られたみたいね。今回来賓として招かれたというのは表向きの話で、本当の目的はユーエン様との婚約だともっぱらの噂よ。ユーエン様も王女を諦める為貴女と婚約した様だけど、王子が産まれてからは他の縁談避けに貴女を利用していたって事ね。準備が整ったら貴女は用済み。それでもユーエン様程の方の、婚約者になれたのだから、有り難いと思うべきかもしれないわよ。凄く哀れではあるけど」

どこで息継ぎしているのか不思議に思う程、ペラペラと嬉しそうに話すウルセラの言葉は、私の胸を抉る。

けれど今迄のユーエンの態度を考えれば、納得の出来る内容だった。

しかし私には騎士であるユーエンが、そんな卑怯な真似をするだろうか?という疑問も残った。

まだ嬉々として話すウルセラに、私は貼り付けた笑顔を向けて「ご親切にどうも!」と微笑んでみせる。

これは私の精一杯の去勢だ。

一瞬怯んだウルセラの隙を見逃さず、サッと背中を向けてその場を去る。

はあ、もう!願わくばこれから先、ウルセラの靴に小石が入り続けます様に!

なんて地味に嫌な呪いの言葉が頭に浮かぶのは、仕方がない事じゃない!?

読んで頂いてありがとうございます。

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