イリア様には励まされてきた【ノエル視点】
会場内で、何回かご令嬢達に声を掛けられたが上手く交わしながらも挙動不審に周りを見渡しているのは、姉上を探しているんです。
いい加減、姉離れした方がいいのでしょうけど出来たら苦労はしないんです。
姉上はきっとアレン王太子殿下が好きなのは見てわかりました。
一方通行の恋だったら邪魔しようかと考えていたけど、相思相愛みたいです。姉上の恋は応援したい……そう思って、殿下に近付いたんです。
姉上の力になりたいので。王太子妃の教育やら色々と不安な事が多いので、陰ながら助けてあげないと。
姉上はすぐ目を離すと、とんでもないドジを働くので心配です。だからこうして助けていかないと。
バルコニー近くまで来たら、姉上と殿下の姿が見えたので、バルコニーの入口横の壁にもたれかかる。
姉上は殿下が好き……わかってます。相思相愛なのも。
僕は息を吐くと、ハンカチーフを差し出してくる一人のご令嬢がいました。
「あら? 今日は泣かないんですのね」
イリア様が首を傾げていた。
「……幼い頃の話でしょ。今は泣きません」
「残念ですわ。お兄様の稽古がスパルタ過ぎて良く泣いてらしたのに」
「もう、その話は良いでしょ」
幼い頃の話を持ち出されて、恥ずかしくなって話題を変える。
「それよりも良いんですか。あんなにイアン様とくっつけたがってたのに」
「仕方ないじゃないですか。本当だったら強引にでも、とは思ってたのですが……ソフィア様があまりにも良い子で可哀想だったのですから」
「思ってたんですね」
「お兄様よりも他の殿方達だって狙っていたのですよ。それは心配しないのですね」
「最初は心配してましたけど、薄々気付いていたみたいですよ。姉上はわかりやすいですからね。相手が相手なのもあって、静かに身を引くのが賢明ですよ」
「……王族ですものね」
イリア様は、バルコニーを見た後、僕の横に来て、壁に寄りかかった。
「……なんですか?」
「失恋した可哀想な殿方を慰めてるんです」
「失恋なんて」
「気付いてないのですか? 顔がこの世の終わりみたいになってます。そんなか弱い殿方の寂しさを埋めようと、私が話し相手になってあげてるというわけですわ」
なんで上から目線な……。
「はい。ありがとうございます」
思えば、イリア様には色々と励まされていたんです。今のこの優しさも……イリア様なりの励ましだろう。
イリア様に言われて気付いたんです。虚しさがあるのは失恋したから。姉上に対して恋愛感情はありました。
でも、自分の気持ちに蓋をして、姉上の気持ちを優先しました。
「私、ノエル様には悲しい顔は似合わないと思いますの。ですから、沢山美味しいもの食べて早く気持ちを切り替えてください」
「はははっ!! 何ですか、それ。それじゃあ太りそうですよ」
励まし方が面白くて吹き出しました。
「太ってても良いんです」
「太ったら婚約者は現れないですよ。婚期を逃しそうです」
「あら。良いじゃないですか。その時は私が結婚致しますわ」
イリア様はイタズラっ子な笑みを浮かべました。
それは、冗談なのか本気なのか。実際には分からない。
それでも……イリア様との結婚生活は悪くないなと思ってしまいました。




