お慕いしております
口の中があまりにも苦くて、口を抑える。
目の前にアレン様が苦笑しながらいるし、ワイングラスが割れて、飲みものが床に散らばってる。
しかも、なんでアレン様は床に倒れるように寝そべってるんだろう。上半身を起こしてるけど。
私も座ってるし……。
何してたんだっけ?? と、記憶を遡っているが思い出せない。
なんだかとてつもなく失礼なことをしてしまった気もする。
「酔い冷めた?」
「……私、なにかしましたでしょうか? 記憶が……」
「覚えないのか」
アレン様は私の頬に優しく触れる。
「残念だな。あんなにも甘えたように『好き』だと連呼されたのに」
「え!? 私、そんなこと……言った覚えは」
「覚えてないんでしょ。だったら、言った可能性もあるよね?」
柔らかく微笑むアレン様に心臓が高鳴る。
なんだろう。今日はいじわるかも。私は目を逸らそうと下を向こうとした。
だが、両の頬をアレン様の両の手で添えられ、強引に顔を向けさせられる為、目を逸らそうとしても逸らすことが出来なくなった。
「ダメ。俺はさっき言ったよ? 今度は酔ってない時に聞かせてほしいって」
「そんなの……聞いて……」
『ない』と言おうとしたが、とある映像が頭をよぎった。
私は口を抑える。頬や耳までも熱いから、ゆでダコのように耳まで真っ赤に染まってるんだろう。
「思い出した?」
「今日、なんだかいじわるです」
「ごめんね。だって、あれだけ言っといて、覚えてないなんて……ちょっとショックだったからいじめたくなっちゃった」
「な!?」
確かに忘れてたけど、でも思い出したら恥ずかしい。しかも口の中が苦味で広がってたのも……、思い出しただけでも恥ずかしくて、おかしくなりそう。
出来れば、気持ちを言わずに黙っとくつもりだった。私が王太子であるアレン様を好きだなんて烏滸がましい気がしたから。
妃教育は、アレン様が好きだから、気付いてしまったから……それだけで頑張れる。
でも、それなのに……酔った勢いで告るなんて……。
隠せない。知られてしまったのだから。
「あっ……えっと、その」
戸惑っていると、アレン様は私の頬から手を離し、立ち上がる。
そっと手を差し伸べられ、私はその手を取る。
グイッと引き寄せられ、その勢いで立ち上がる。立ち上がった勢いが強く、よろめいたらアレン様に支えられた。
「あ、ありがとうございます。その……手」
私はアレン様から少しだけ距離を取ろうとしたが、手を離してくれない。それどころか指の間に指を絡めはじめる。
「前に言ったでしょ。いつまでも待ってるつもりはないよ。だから、逃がさない」
「うぅ」
耳元で囁かれる。……逃げたい。
けど、逃がしてくれなさそうなので観念するしかない。
「ア……アレン様の事をお慕いしております。いつからなのかは分かりませんが……好きなんです」
「嬉しい」
コツンっとアレン様は私の額に額をくっつけた。いきなり顔が近くなったので固まってしまった。
アレン様は空いてある手で私の腰に回し、引き寄せる。
一回目は、パプニングだった。二回目は薬を飲ます為に……そして、三回目はーー……。
辺りは暗くなっており、会場内の光と外の魔導具からの光方は違っており、外は若干暗めだ。
それがやけに、『いけないこと』をしているように思わせられるから、余計に恥ずかしくなる。
目の前のアレン様に丁度月が重なっていて、綺麗だと思ってしまう。
見惚れていると、それに気付いたアレン様は「何を考えてるの?」なんて、聞いてくる。
「なんでも……なっ!?」
最後まで言い切る前に、唇を塞がれた。
軽く触れるだけのキスはすぐに離れるが、息をする度に唇にかかる距離で話された。
「そうか、それは妬けてしまうな」
誰に!?
クスッと笑ったアレン様は絶対に妬けてなんかいなくて……わかってて私の反応を見て楽しんでるようだった。
「それ、絶対に……んんっ」
反論しようとしたら、また唇を塞がれた。今度のは軽くはなく、舌を入れられ深くされる。
ずるい。本当にずるい。
やっと唇が離されると、私は腰を抜かしたのをアレン様は支えてくれた。




