酔ってない時に改めて聞かせてね【アレン視点】
皇帝陛下に挨拶をすました俺は、周りを見渡して、ソフィア嬢を探す。
ソフィア嬢らしき後ろ姿が見え、声をかけようとしたら、曲が流れる。
同時に、令嬢達に囲まれてしまった。
目の色を変え、迫ってくる。わかりやすいぐらいに下心あり過ぎなので一喝したい気持ちを抑え、俺は優しく微笑み、やんわりと断る。
そうこうしている間にソフィア嬢の姿が見えなくなった。
そういえばいつからだろう。目で追ってたり、気になったのは。思えば最初っから出会った時からだったような。
どうしてか、気になって……、『婚約』をしてないのに『破棄』された理由が気になって、何故かそれが無性に嫌だった。
この子と婚約したいと、まだ会って間もないのに思ったなんて、恥ずかしくて出会った当初は絶対に言えなかった。
そもそも言語化もしたくなかったから、自分に言い訳し、ソフィア嬢にも言い訳してしまった。
でも今は……、言い訳が出来ないぐらいソフィア嬢が好きになっていた。
「ソフィア様を探してますか?」
「クロエ、殿」
周りを見渡していたら、クロエ殿に話しかけられた。
「ソフィア様なら先程バルコニーに行かれましたが」
「わかった。感謝する」
軽く感謝し、バルコニーに向かおうとするが、飲みものでも持っていこうかと思い、ワインに手を伸ばす。
そういえば、以前ノア殿がソフィア嬢にはお酒の匂いやお酒を呑ませたらいけないのだと言っていた。
ソフィア嬢はかなり弱いらしい。念の為に気付け薬も渡されたが、お酒が入っていなければ問題ないだろう。
ノンアルコールの飲みものが入ってあるワイングラスを選び手に持つ。
俺もノンアルコールのものだ。
両手にはグラスで手が塞がっている状態。
バルコニーに足を踏み入れ、ソフィア嬢の名前を呼ぶ。
ソフィア嬢は肩を跳ねらせた。振り向いて俺を見たソフィア嬢は顔を赤くしていた。可愛い。
俺に赤くなっているんじゃない。バルコニーの下にいるイチャつく男女を見て赤くしているんだ。
それがなんとも腹が立つ。
「少し、話をしないかい?」
腹が立っている事を悟られないように話すとソフィア嬢はゆっくりと頷く。
俺はソフィア嬢に近付き、手に持っていたノンアルコールの飲みものが入ったワイングラスを渡す。
「お酒ですか?」
「大丈夫、アルコールは入ってない」
ソフィア嬢は俺からワイングラスを受け取ると、呑む。
それを見た俺も、呑んでみる。
ソフィア嬢の横にいき、手すりに肘をついて、バルコニーから見える景色を見下ろす。
開催した時間が夕方だったのに、今は夜になっている。時間の経過は早いな。
「あれから変わりない?」
「は……い。特に、」
「そうか。それなら良いんだが。何かあったら相談してほしい。勿論、真っ先に話してくれたら嬉しいけど」
「相談?? してりゅ……もん」
ソフィア嬢はヒックっとしゃっくりをしている。
様子がおかしいのでソフィア嬢を見ると、頬が赤くなっている。
「もしかして、酔ってる?? ノンアルコールだよ!?」
「私は酔ってない!!」
頬を膨らまして、ぷいっとそっぽを向くソフィア嬢が可愛い。いや、そうじゃなくて、
「水を持ってくるからきみはここにいて」
気付け薬があったのだが、水で冷めそうな気がしたからバルコニーから会場に行こうとした。
が、ソフィア嬢に裾を掴まれ、止められた。
「行っちゃ、いや」
「え、ソフィア嬢!? 危なっ!!!?」
ソフィア嬢に引き止められたと思ったら、前のめりに倒れそうになったので咄嗟に抱き締める。
俺が下でソフィア嬢が上に乗ってる形で倒れた。
手に持っていたワイングラスが下に落ち、割れる。残っていた飲みものが床にシミを作っていく。それはソフィア嬢の持っていたワイングラスもそうだ。
「怪我してない!?」
上半身を起こせばソフィア嬢は座る形になる。下を向いたまま、顔を上げない。
「何かあった?」
優しく聞くと、ソフィア嬢はフルフルと頭を左右に振る。
「す……き……」
「え」
「好き。いつも見守ってくれていて、私の気持ちを優先して……くれてたのに、自分の気持ちがよく分からなくて……こんな気持ち、よく分からなくて困る」
戸惑いながらも慣れないであろう告白に必死感が伝わって愛おしくて堪らなくなる。
「優しさが、怖かった。好きになっちゃいそうで……好きになったら、抑えられそうになくて……アレン様は誰にでも優しいから、その優しさが嘘なんじゃないかと思って不安になったり……でも、それでも信じていたいと思わせられたり……そんな感情に振り回されてるけど……その、ワガママ言ってしまうとひとりじめしたいんです。アレン様の求婚の言葉を……私だけの言葉と捉えてもいいですか?」
ソフィア嬢の赤かった頬が更に赤くなる。
求婚の言葉ーー馬車の中で言ったことか。アイリス嬢を救うために向かった時に移動手段として馬車を使った日だ。
俺の求婚なんて、誰にでもするわけじゃない。ソフィア嬢にしか贈ってない言葉だ。不安なのは俺もそうだし、みっともなく嫉妬することだってある。
そんなこと、ソフィア嬢は知らないんだろうけど。
「そうか」
俺はソフィア嬢の頬に手を添える。もう片方の手で薬瓶を取り出した。
「でもごめんね。その告白は可愛いんだけど、酔ってない時に改めて聞かせてね」
薬瓶の蓋を片手で開け、気づけ薬を口に含み、ソフィア嬢の顔を俺と目が合うように上へ向けさせると口付けする。
顎に指を持っていき、唇を開けると、薬を流し込む。
薬が唇から唇に伝う。
「んんぅ」
ソフィア嬢の苦しそうな声が聞こえるが、やめることはない。
ごくんっと喉を鳴らした音が聞こえたので唇を放すと、つーっと透明な液がソフィア嬢の唇から流れ落ちる。
ソフィア嬢は下を向く。
唇に手を当てて、
「……にがっ」
苦虫を噛み潰したような顔で言ったので「そっち?」と思わず苦笑してしまった。




