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でしたら、見守ってあげてください

 毒殺しようとした犯人は捕まりその晩、牢屋で自害したそうだ。


 ただ、私の事を同じ暗殺者なのだと思ったらしく取られる前に取ろうと焦った結果らしい。


 アレン様のついでに私の事も殺ろうと思っていたそうだ。


 取り調べでわかったことだ。だけど、肝心の依頼者のことについては口を割らなかった。


 依頼者の情報をはく前に自害を取った……ということは、依頼者の奴隷かあるいは使用人か……。


 自害を取るのは、それなりに忠誠心が無いと出来ないことだ。もしくは、弱みを握られてるのか。どっちにしろ、その本人は死んでしまったので憶測だけになってしまうけど。


 それにしても、無事だったから良かったものの、一歩間違えれば王子は死んでいた。しかも溺死として。


 咄嗟だったからとはいえ、突き飛ばすのは良くなかったよね。反省……。


 アレン様を突き飛ばした池でしゃがみこむ。


 私の見張り役のキースさんは距離を置いて見ている。ジョセフさんは客間に置いてきた。寝るんだと言って、寝ているので無理に起こすのも可哀想だった。


 私は手を池につける。


 ひんやりと冷たいが凍えるほどではないことに少し安堵した。


 微かに手も透ける。忘れかけてたけど、私は呪われているんだっけ。透明になる呪いを……。


 今はジョセフさんの魔力が弱まってるから姿が見えるだけで、でも……手が透けるって事はジョセフさんの魔力が回復した証拠。


 帰るとしたら今夜かな。


「待て!!」


 盛大にため息をしていると、勢いよく肩を掴まれる。


「ど、どうしたんですか?」

「どうって……消えてしまうんじゃないかと。自殺を考えてるんじゃないのかと」


 私の肩を掴んだのはアレン様だった。私を見て、急いで来たのだろう。肩で息をしていた。


「しませんよ。どうしてそう思ったのでしょう」

「昨日、突き落とした責任を感じて自ら命を絶ってしまうのかと。以前いた教育係も……そうだったから」


 アレン様は顔を強ばらせる。声が震えてることからトラウマになりつつあるんだろう。


 一体、何があったのか……私からは聞かない。けど、まだ幼いのに常に死と隣り合わせな世界で生きていくって、アレン様は一人で抱えてたのだろうか。


「毒殺しようとした犯人に教育係はさせられたんだ。勿論、否定したが受け入れてもらえなかった。とある侍女の証言が決定打となってしまった。それは侍女の虚言だったというのが教育係が死んでから発覚した。嘘だってわかってたんだ……でも何も出来なかった。耳を傾けてなんてくれなかったんだ」


 アレン様はポツリポツリと話し出す。まだ幼いから、誰も真剣に聞いてくれなかったのか。こんな幼い子はまだ何も出来ないと思って。


「お前は、死なない? 自殺なんてしないよな」


 私は頷く。アレン様の両の手を握る。


「はい、しません。それと数日しか会ってない人に心を許してはいけませんよ」

「……数日しか立ってないのに、お前は驚くほど嘘が苦手でどこか真っ直ぐなんだ。一緒にいると楽しい」

「王子」

「未来で、会えるんだろ。その時は……今この瞬間の記憶が無いかもしれない」

「……そこも知ってるんですね。私と会った記憶が無くなるの」

「……未来では同い年なんだろ? 結婚するなら、お前がいいな」


 私はその発言に驚いたけど、クスッと笑った。


「ふふっ。まだ婚約が決まってないのに振ってしまいますよ、未来の私は」

「なんだそれ。そうなれば、改めて求婚する。ソフィア、お前といるとどこか癒される。こんなことはじめてなんだ。例え、記憶が無くなったとしても心は覚えてる。ちゃんと……覚えてる」

「でしたら、見守ってあげてください。私も……いえ、忘れませんから。絶対に忘れませんよ。王子とこうして話したことや手の温もりも」

「ああ」


 なんか悪いことしてる気分になる。いや、やましい事は何一つ無いんだけど。会話がね、なんというか……。


 遠距離恋愛をするカップルの会話に近い気がする。


 しばらく会話してるとキースさんが間に入ってきた。一回咳払いし、アレン様に勉強の時間だから戻るように促した。


 私を見たキースさんは、「ほら、行くよ」と促された。

 行き先は客間だろう。自由時間は終わりということだろうな。





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