話したところで未来に影響はない
牢屋から客間に移動させられたのは良いけど、警戒はされてるらしく王宮二階にある客間全体に結界を張られ、扉の外には護衛騎士のキースさんが立っている。
王宮なのもあって、かなり高級品の家具が置いてあるし、バルコニーや風呂場まである。客間なのにホテル並だった。
結界でバルコニーに行けないのが残念だけど。
今は、日が沈み、月が顔を出す時間帯。
私は、ソファーに座って、ジョセフさんの体に巻いてある古くなった包帯を取っていると、ジョセフが負った傷がもう塞がっていた。
「傷、もう塞がってる」
「言っただろう。治りが早いと」
「そうですけど、見るまで信じられないじゃないですか」
古くなった包帯を取り終えると、新しい包帯を手に持ち、巻いていく。
「巻く必要はないと思うが」
「念の為です。私よりも怪我が酷かったんですから。王宮の魔導士を持ってしても、完治は難しいと判断されてるんですからね」
巻き終わると、ジョセフさんはソファーから降り、人の姿になる。
テーブルを挟んだ向かい側にあるソファーに横になった。
「止めませんでしたね」
「何を?」
「アレン様に話したことです。過去に来てしまったことを」
「止めてほしかったのか?」
「そういう訳じゃないですけど。よく言いません? 過去を変えれば未来は変わるって。とはいえ、アレン様には誤魔化しは通用しないですけどね」
「心配するな。元の時間に戻れば、過去の者はこの時間に起こったことなど綺麗さっぱり忘れてしまう。だから、話したところで未来には影響はない」
「それって……私とジョセフさんが来たことや話した事も忘れてしまうということですか」
「そういう事だ」
ジョセフさんは両手を頭の後ろで手を組み、目を閉じる。しばらくすると、規則正しい吐息が聞こえてきた。
……寝てる。
でもそうか。記憶、無くなってしまうのか。
だったらせめて、毒を入れた犯人だけでも探してみようかな。
危ないことはしないよ。ただ、今この王宮の者たちは疑心暗鬼になっているだろうし、そんな中で生活するのは住みにくいと思うから。
ジョセフさんの回復をただ何もせずに待ってるのも嫌だしね。
毒を入れた犯人をおびき寄せたいけど、多分得体の知れない私の存在やジョセフさんを警戒しているはず。
接触してきそうな気もする。外部から新たに送り込まれた暗殺者なのだと思って。
漫画の知識だと、ターゲットを取られたくないがために殺し合ったりもするのよね。たまに手と手を取り合うのもあるけど、よっぽどなことじゃないと。
だったら考えられるのは前者ね。殺しにくる。
相手は殺しのプロ。行動するのは皆が寝静まった夜になる。
でもアレン様への夜の襲撃が無いのは護衛騎士が二人もいて手が出せなかったからだろう。オリヴァーさんは予想外の出来事が起こると思考が停止しちゃうタイプのようだけど、キースさんは違う。
キースさんに警戒しているはず。だったらよ、今扉の外にいるのがキースさんでアレン様についているのがオリヴァーさんなら……。
今、狙われてるのは私ではなくてアレン様の可能性が高いのでは!?
私は急いで扉に駆け寄ろうとしたら、腕を掴まれた。
「おい!?」
さっきまで寝ていたはずのジョセフさんが驚いた表情をして掴んでいた。
「そこまでする必要があるのか」
「必要があるとか無いとか……そんなのどうでもいいです。私は、大切な人を死なせたくないだけです」
ジョセフさんは諦めたように盛大に溜息をした。
掴んでいる腕を離してくれた。
「今夜は何も起こらないだろうから安心しろ。暗殺に失敗してんだ。失敗すれば次は確実に仕留めようと慎重になるから、夜の襲撃はしないだろう。それに、夜に襲撃したから次は毒殺にしたとも考えられるからな」
「それ、どういうことですか」
「最初に会った時の王子の怯えぶりだ。まだ十歳未満の子供にしてはあんなに怯えたりはしない。トラウマな出来事があった証拠だ」
言われてみればそういう考え方もある。
「だったらどうすれば」
「簡単な事だ。王子を殺せばいい。まぁ、ふりだけどな。そうすれば、ターゲットを横取りされたと勘違いして自ら名乗りを上げてくれるだろう」
ジョセフさんは扉を見た後、鼻で笑った。
「まぁ、悪役になってもらおうか。出来ないなんて言わせないからな。自分から言い出した事なんだから」




