推しとしてじゃない
私は、今までの経緯と自分が何者であるかも話した。但し、転生者というのは秘密にして。
最後まで黙って聞いていたアレン様は私の目を捉え、頷く。
本当に、十歳下なのだろうか。と、不安になってしまう。
精神年齢が十歳よりもかなり上な気もする。
「事情はわかった。ーー公爵令嬢か。公爵家に訪問する予定は今のところないが、養女として迎えられたのならばそのうち顔を出しに出向くだろう。もしかして、両親を亡くして公爵家に引き取られた子がいると父上に聞いていた。そうか。お前にとっては今いる時間は過去なのだな 」
アレン様は考え込み、一息ついてから口を開いた。
「ソフィア・フローレス……?」
私ははにかむように笑って、頷いた。
フローレスは私の前のファミリーネームだ。懐かしい。
「聞いていい? 公爵家での生活はどんな感じだ?」
「どう……と、言われましても、皆さまとても親切で優しくて、とても良くしてくれます」
アレン様は私の言葉に満足したようだ。顔がニヤけてる。可愛い。
「未来では闇魔法をしっかりと操れるんだな」
「はい。そうですね」
「なら、結婚する必要も無いんだな」
そうだ。アレン様が婚約の話を持ち出したのは私が闇属性持ちだったから。結婚したら幽閉に近い形で閉じ込める。
なにせ、危険な存在だから。結界を何重にも重ねて幽閉する。それが、決められていた。だからアレン様は私に必要以上に優しくして好意を向けさせようとした。
でも、闇属性を操れるのなら、その必要は無くなった。
ーー告白はされたけど。
闇属性を操れるようになってもアレン様はこれまで以上に私に優しく甘やかしてくれる。
私を好きだと言ってくれた。幽閉させないように手を差し伸べてくれた。
「確かに……結婚する必要は」
それでも、私のことを心配して怒ってくれたり、今後の未来を……私の幸せを考えてくれて、いつでもちゃんと向き合ってくれた。
「わか、りません。でも、必要ないって決めつけないでください」
目頭が熱くなり、頬を伝って雫が溢れ落ちる。
認めざるおえないじゃない。こんなの……。
好き。
推しとしてなんかじゃない、
私は、一人の男性としてアレン様が大好きなんだ。
急に泣き出すものだから、アレン様は狼狽えた。
ソファから立ち上がり、私の元に行くと涙を指で拭う。
「ごめん。今のは無神経だった」
「いいえ、ただ……、気持ちの整理が出来て、スッキリしただけです」
「気持ちの整理が出来たら泣くのか? 変わってるな」
アレン様は苦笑した。
「……どうやったら笑う? お前は笑っていた方が可愛い。だから、俺の前だけは笑っていてほしい」
「結婚する必要が無いと言っていた女性にたいして言うのは、残酷ですよ。今のは惚れてしまいますので」
同い年でこんな美男子に言われれば頬を赤く染め、惚れるだろう。だけど、私は今いるのが過去なのもあってドキッとしないけどね。
うん、可愛いとは思ったけど。
「そうなのか。でも、お前は他の令嬢とは違うような気がしてな……嫌われたくないんだ」
「違うって」
「近寄って来るのは王太子妃の地位に目がない輩ばかりだ。媚びを売って取り入ろうとするの者もいる。俺を見ようとしてないのが態度や言動でもよくわかる。必然的に嘘を見破れる能力を身につけなければ命にも関わるかもしれないからな」
アレン様は……生きる為に必死だったんだ。王族だし、命も狙われるものね。
私は何も考えずにアレン様の頭を撫でた。我に返り、手を離す。
なんて失礼なことをしてしまったんだ!?
「嫌では無いし、不敬罪にはならないから安心しろ」
そんな慌てふためく私を見て、面白そうに吹き出してアレン様が言う。
「それに、ここにいるのはオリヴァーとキース、それに俺とお前だ。何も見てないし、何も聞いてない」
チラリとオリヴァーさんとキースさんを見ると、二人とも目を逸らした。
キースさんがわざとらしく咳払いをした。
「王子、お戯れが過ぎます。あんたも相手が王子だということを忘れないように」
アレン様には優しく、でも私には冷たく言い放つキースさん。怖くてゾクッとしてしまった。




