貴族は噂好き
貴族……特に、令嬢は噂好きな人が多い。
ので、よく分からないデタラメな噂がまるで真実のように拡散されていた。
噂の内容は、私が性格悪くを陥れようとしていること。
アレン様とジャネット・デイビス侯爵令嬢は婚約者同士なのだが、私が二人の仲をよく思っていなくて引き離そうとしている。
ジャネット様が傷付くのに耐えかねて、渋々婚約者同士なのを隠し、婚約解消をしているフリをしている。
と、クロエ様の聞き込みにより明かされた噂で、その内容を聞いた時に目が点になってしまった。
私が性格悪いのは事実なのでそこは良いとして、ジャネット様とは何回かすれ違っただけで話したことすらない。アレン様とジャネット様が婚約者同士だっていうならば、私にちゃんと話してくれるのがアレン様だと思う。
嫌がらせしたこともないし……これじゃあ本当に悪役令嬢みたいだわ。
「大丈夫ですか?」
噂を話してくれたクロエ様は私の顔を覗き込んだ。
私はゆっくりと頷く。
そもそも、噂が気になると相談したのは私だ。クロエ様はクラスも一緒で何かと相談しやすい。唯一、私が転生者だと知ってる人物。
相談した……だからこそ、言葉にするのは慎重に選ばないといけない。
一度言ってしまったら、取り消しは出来ないのだから。
クロエ様は話を続ける。
「二人は幼なじみのような関係らしいです。ジャネット侯爵令嬢の父親がミットライト王の宰相らしいので」
「……私、ゲームでも今でも幼なじみがいるなんて初耳です」
「それはあくまで噂の話です。ゲーム内ではジャネット様は二作品目に登場してきます。それも脇役としてです。設定ではジャネット様の父親が宰相なのは変わらないのですが、ジャネット様とアレン王太子殿下は何の接点もありません。ただ、小さい頃からジャネット様に『婚約者確定だと』としてデイビス様が豪語してるのもあり、ジャネット様が思い込んでしまったのです。それから、ストーカーのようになっていくのですが……」
「二作品目というと、一作品目のその後の話になるんですよね。私はプレイする前に死んだのでやってないんですが」
「ジャネット様の思い込みはとにかく激しいです。二作品目はストーカーをするだけで何もしてこなかったのに……こんな強行手段を取るとは」
「まず、噂を解かないと。ますます酷くなってしまいます」
「エスカレートしたら、大変ですからね」
確かに思い込みは怖いと、身を持って経験済みなので他人事ではない。そもそも巻き込まれてる時点で他人事じゃないんだけども。
私もそうだった。ゲーム上では私とアレン様が婚約者同士。その婚約者にならない為にと気を張っていたらテンパって『婚約破棄したい』と言ってしまった。
急な事だと冷静に物事を判断出来なくて、どうしてもテンパってしまう私の悪い癖が失言とともにフラグを回収してしまったのよね。
黒歴史だから早く忘れたいのに……、似たようなことが起こると度々思い出して恥ずかしくなってしまう。
目の前のクロエ様を見ると、考え事をしていた。
今いる場所はカミューリャ塔にある客間。塔の玄関はこの前の戦闘でボロボロになっているが、運良く客間は綺麗だった。
なによりも学園中が変な噂で持ち切りなのに、更に変な噂を立てられたら困る。
クロエ様は男性にも女性にも魔法で姿を変えられるけど、きっと、女性の姿で私と話していても悪い方向に噂され、クロエ様も居ずらくなるだろうし(今の姿は女性。聞き込みも女性の姿でしてもらった)。
なので、ゆっくりと会話するとなると、やっぱりカミューリャ塔しかない。
カミューリャ塔はエレノアさんが管理人なのだが、常に塔にいるわけではない。
私とクロエ様が来た時に出掛ける準備をしていて、留守番を任されてしまったので、帰ってくるまで塔にいることになってしまった。
そして、今に至る。
「……ソフィア様」
考え事をしていたクロエ様が私の名前を呼んでから、一呼吸置いて再び口を開いた。
「二作品目の状況と今回の状況を比べてみたのですが、二作品目は、卒業後から結婚までのシナリオです。間に入ることが出来ないと悟って何もしなかったのでしょうが、今回は殿下は婚約者が居ないし、何よりもソフィア様を気にかけてるのは事実です。密かに見ていたのなら、その変化も何となく気付くのかもしれません」
「……ジャネット様にとって私は邪魔、ということですよね」
私とアレン様はゲーム上では婚約者同士(後に婚約破棄されるが)だったけど、今回は婚約してない。
それは、誰にでも王太子妃になる確率があるということ。
困ったな。
更にその相手が話し合いで解決出来そうにない相手かもしれないのだからなお困った。
でも待って、どうしてそんな噂を流して私を孤立させようとしたのが今なの?
もっと前にも出来たはずなのに。
噂って厄介ですよね。
噂を信じて、本人には直接聞かない。両方から話を聞かずに片方だけの話だけで善悪を判断したり。




