嫌い、じゃない
「マテオ様」
「お久しぶりです。ソフィア様」
「本当に……久しぶりですね」
ニコッと微笑むマテオ様に戸惑いながらも返事をする。
関わらないように避けてたのは事実。巻き込みたくなくて、傷付けたくなくて、選んだ選択は距離を置くことだった。
最近は色々とあり過ぎるせいもあって、会わなかったのに。
こんな時に鉢合わせするだなんて……。
「お元気そうで、何よりです」
「うん。お陰様で」
「それでは失礼しますね」
会話が途切れるタイミングを伺って適当に切り上げて寮に帰ろうとしたら、マテオ様に呼び止められた。
「ソフィア様……なんで俺を避けるんです。気付いてないと思ってましたか?」
マテオ様の横を通り過ぎた時に言われて、立ち止まる。
「な、なんのことでしょう?」
「怒ってますか。俺が……デメトリアス低に居た時に散々言葉遣いが悪かったり殺そうとした時のこと」
「もう過ぎたことですよ。気にしてません」
「貴女はいつもそうだ。本当は、俺が怖くてたまらないくせに良い子ぶるんだ」
「何を言って……」
振り向くと、マテオ様と目が合った。逃げないとと、直感がそう告げていた。
逃げようとした私の手首を掴む。力強く握るものだから痛みで顔を歪めた。
マテオ様を怒らせた?
いや、違う。傷付けたんだ。私の安易な行動で。
もう片方の手が伸びてきて、ビクッと肩を震わしたらマテオ様の手は私の頬に触れる。
「……お願いだから、嫌わないで。謝っても済まされない事をしたのはわかってるし、ものすごく後悔もした。自分本意な考え方なのもわかってる。それでも……俺はソフィア様には嫌われたくないと思ったんです」
苦しそうにしているマテオ様。マテオ様の全身に紫色と黒色のオーラが見え隠れしていた。
このオーラを私は知っている。でも……今は、
「嫌いじゃ、ない。マテオ様は沢山傷付いたでしょ。だから、巻き込みたくなかったんです。それに、マテオ様はデメトリアス家に居候していた時期がありましたし、その恩から話しかけてくれてたのかと……私の事、嫌いなんだとずっと思ってました」
「そんなこと……」
「ほら、ちゃんと否定しない」
マテオ様は本当は優しい人。ただ、周りの人達や環境のせいで心が歪んでしまっただけ。
今は……良い人達に巡り会えんだよね。こんなにも素直に自分の気持ちを伝えてるだろうから。
「ずっと……囁くんだ。避けられてるのは嫌いだからって、だから知りたくて……その、すみません」
私の腕や頬から手を放したマテオ様は距離をとる。
マテオ様の黒色のオーラは強くなる。
不安になればなるほど、黒色のオーラは強くなる。間違いない。
マテオ様は悪魔に見初められているんだ。
私だ。私のせいだ。自分の中で勝手に気持ちを決めつけて、避けてきた私の……。
「悪いのは私です。だから、謝らないで」
そのうち、悪魔に喰われてしまう。最悪、悪役令嬢と同じ運命に……。
そんなことさせない。させる訳にはいかない。
絶対に死なせない。




