そういう問題なんですかね
庭に出ると、大きくて枯れている木々の丁度真ん中に木を削って作ったであろう十字架が横に二つ並んで地面に刺さっていた。
一度掘られたのか、十字架が突き刺さってる箇所だけ土が盛り上がっていた。きっと、遺骨がこの中に眠っているのだろう。
その証拠に十字架には無造作に両親の名前が掘られていた。
「驚きましたか? 質素すぎるお墓で」
「いえ、ただ……やっと会えた事が嬉しいです」
ノア先生が私の背後で話しかけてきたので、振り返ることはせず、両親のお墓から目を逸らさずに言葉を紡ぐ。
私の中に闇属性があると知った両親は、私を生かすべく活動していた。
そして、最悪な形として私の命は救われた。
もしも、私の中に闇属性が無くて、普通の人間として産まれたならばきっと両親が亡くなることは無かった。
そして私も……ただの魔術士の子供として貴族に引き取られたんだろうなって思う。
自分の命がかかってるという恐怖と不安に戦うことはあまり無い未来が待っていたのかも知れないけど……。
そうなれば、今の私は存在しないのよね。何せ私をこの世界に呼んだのは他でもない悪役令嬢なのだから。
私は目を閉じて、黙想する。
この世界は、お墓の前で両手を重ねて祈るのではなく、黙想するらしい。
その人の死は決して無駄では無かったのだと保証の意味があるのだとか。他にも理由はあるらしいけど、難しかったのもあり理解出来なかった。
ゆっくりと目を開けると、ふと思ったことがある。
悪役令嬢のお墓も作りたいと。でもそれを話してしまうと、事情を知らない人は不審に思うだろう。
何せ、その事を知ってるのはアレン様とノア先生だけなのだから。オリヴァーさんとキースさんは知らない真実。
「ソフィア嬢、お墓。俺が後で手配するよ。それで良い?」
私の気持ちを読み取ったのか、アレン様が私に近付いて耳元で囁いた。
いきなり息が掛かるものだからビクッと肩が跳ねた。
耳元を抑え、アレン様を見る。驚き過ぎて心臓がバクバクと鳴っている。
心臓に悪い。
「いえ、あの…………、私が作りたいです。あの子は私なんですから」
「そうか。なら、手伝うよ」
「はい。そうですか……って、え??」
「手伝う。やってみたかったしね、お墓作り」
「いや、王族にそんな事をやらせる訳には」
「俺がやりたいって言ってるんだよ。ここはひと通りも少ないんだ。大丈夫だよ」
「そういう……問題なんですかね」
「うん、そういう問題だね。また、時間がある時に来よう。その時にお墓作ってあげよう」
上手く言いくるめられた感じはあるものの、私は頷く。
静かに眠りたいはずだから。
悪役令嬢が色んな人を沢山傷付けた罰だというならば、私が全てを許す。
もう今の軸では、悪役令嬢によって傷付けられた人はいない。アレン様に呪いとして苦しめたのは事実だけど、アレン様は恨んではいないだろう。寧ろ、寂しさがあったのだと思う。
そうじゃなかったら、目を覚ましたアレン様が私を抱き締める事はなかったと思う。
アレン様はこれ以上、何も言わないけども彼なりに悪役令嬢を想っての言葉だと私は受け取った。
だからこそ、『もう苦しまなくて良いんだよ』の意味を込めてお墓を作りたい。
気休めにしかならないだろうけど、それでも……安らかに眠ってほしい。そう願う。




