まだ幼くても仕方ないで片付けるのは間違っている
地下に行くと、少し湿った空気と雰囲気がする。湿気が強めのようだ。
木造建築で地下も木造なので当然といえば当然なんだけど。
中央には魔法陣が描かれ、壁側には本棚がある。この部屋の構造、何処かで見た事あると思ったらオリヴァーさんも思ったようで、驚いていた。
「この部屋。カースと戦った時の部屋に似てますよね」
そうだわ。あの部屋にそっくりなんだ。
すぐに気付かなかったのは、何せ子供の記憶でしかも幼女だ。
さらに地下へ行くことは禁じられていたし、一人で重たい床の扉を開けて行くことも出来なかった。
私が魔力暴走した日も、恐怖で周りを見る余裕は無い。その為、記憶にあるのは断片的なのだ。
だからカースさんに誘拐されて案内された部屋に入っても何の違和感も無かった。
私は床に描かれている魔法陣に触れる。
「…………」
何も言葉が出ない。懐かしさよりも……懺悔の言葉が次々に溢れて自分を責めるのだから。
声に出してその懺悔を言っても、皆を困らせるのを知ってるから何も言わない。
まだ幼かったから仕方ないと周りは私をフォローしてくれるけども、私自身、まだ幼くとも仕方ないで片付けるのは間違っていると思う。
「……お墓、に連れて行って貰えますか?」
「すぐ庭にありますよ」
ノア先生の応えに唖然した。仮にも母は貴族だった。だからもっと豪華なお墓に眠っているのだろうと思っていた。
私の疑問に応えるようにアレン様が口を開いた。
「キミの両親の願いなんだ。死んだらこの家の庭に静かに墓を建ててほしいと。家族で過ごした色んな思い出が詰まっているこの家に……」
「何でそこまでこの家にこだわるのでしょう?」
「……ソフィア嬢、キミが思い出した時に家が無くなっていて、お墓も違う場所にあった時……楽しいが苦痛になるからだよ」
「家があっても苦痛だと思いますが」
そう、苦痛だ。両親は既にこの世に居ない。悲しみでいっぱいになる。
「確かにそうだねーーでもね、ソフィア嬢ならきっと大丈夫。前を向いていけるだろうって願いもあるんだよ。そうだよね、ノア殿」
「はい。その通りです。過去を受け入れ、前を向いた時に連れてこようと思ってました。この場所に……あなたの両親はソフィア嬢を本当に大切にしていたんですね」
前を向いた時ーーそれは、きっとノア先生の気遣いだろう。
過去に囚われて後悔してる時に両親と過ごした場所に連れてこられても余計に心が苦しむだけだし、ずっとネガティブ思考になっていて……もしかしたら、逃げ出していたかもしれない。
もしかして、アイリスを救う為に私が必要だと言って協力してくれたのは……私を両親と過ごしたこの場所に連れて行きたかったため……??
「……あ」
ネガティブ思考ならば、絶対に要らぬ気遣いでありがた迷惑だと否定したがるのに、今はポジティブ思考だからなのか、その言葉や想いが心に響き肯定したくなる。
感謝しかない。そう思った。
思考で感情が変化するなんて思わなかった。
前を向くって良いなと心から思った。
「ありがとう……ございます」
口元を隠して感謝の言葉を声に出す。
悲しくないのに涙が零れ落ちた。




