懐かしい
目を開けると、何処か懐かしくもあり、切なくもなる光景。
木造で建てられた家を屋根が崩壊していて、木が腐りかけている。手入れをしていなかったせいか、庭に生えている木の根っこが家に絡み付いている。
家の扉をオリヴァーさんが開ける。
調理場に寝室。それからテーブルに椅子が置かれている。ほとんど崩壊してるけども。
日本で言うと、ワンルームのマンションって感じかな。思ったよりも狭くてびっくりしてる。
けどーー懐かしい。
テーブルの埃を落とし、再び目を閉じると当時に暮らしていた光景がフラッシュバックしたように鮮明に映し出される。
父と母が楽しそうに雑談していて、その輪に加わりたくて強引に会話に入る私。
優雅な暮らしじゃなかったけど、そこには笑顔が溢れていて……幸せだったんだ。
当時の私はこんな幸せがずっと続くものだと思っていたっけ。
ポンっと肩に手を置かれて、驚いて目を開けて見るとアレン様が心配そうに見ていた。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「地下も見てみますか?」
ノア先生が床にある地下通路の先を指差した。当時は隠してあった通路だ。でも今は床が脆くなっており、崩れているため隠し通路が見えている状態になっていた。
今踏んでいる床もいつ底が抜けてもおかしくない。何せ、踏んだらギシッという歪な音と共に床が微妙にへこむのだから。
「ノア殿。いくらなんでもそれは」
アレン様が何かを察したのかノア先生を咎めようとしたので咄嗟に私は肩に触れていたアレン様の手を取り、首を左右に振る。
「この先に何かあるのかはわかってます。過去の恐怖から囚われてずっと逃げる人生はもう終わりにするって決めたんです。私は前を向きたい。その為にも……見なきゃいけないんです。心配してくださるのは大変嬉しいんですけどね」
「ソフィア嬢がそう言うなら。でもね、よく聞いて。護衛が居るからって油断はしない事。それにキミはひとりじゃないんだから素直に頼ること」
「は……はい。肝に銘じます」
ひとりじゃないっかぁ。
前世の記憶を思い出した時には想像もつかなかった言葉。
きっと悪役令嬢のままならば無縁な言葉よね。まぁ、前世の記憶を思い出したタイミングが良かったといえば良かったんだけど。
何せ、悪役令嬢になる前だったんだから。
私の記憶は、きっと言葉では表せられないほど複雑に絡まっていると思う。その理由は、ループの呪いと関わってるんだろうなと私は思っている。
アレン様に悪夢を見させ、悪役令嬢のソフィアを何度も何度も最愛の人に殺されるループの呪い……。いや、悪魔の呪いと言った方がいいかもしれない。
その事があるからこそ、私はこの世界に呼ばれた。悪役令嬢によって。
悪役令嬢の不器用過ぎる思いにも触れた。
だからこそ、私は……より一層、ソフィアとしてこの世界で生きていくことを決めた。
何があっても逃げないと、決めたんだ。
それがソフィアとして生きていく私の覚悟。
複雑な設定ではありますが、主人格が前世での蛍だったのではなく、元々悪役令嬢のソフィアの魂はアレンの中にいました。
それは悪魔の呪いから少しでも和らげようと悪役令嬢のソフィアが自らの意思でアレンの中に入る。そこで、魂が入ってないソフィアは存在ごと消されてしまうのでたまたま波長が合った蛍を呼んでしまったのです。
そこで少し疑問に思いますよね。
記憶を思い出す前も、蛍の魂が入ってます。ただ前世の記憶が思い出せない状態です。両親の行動と発言は変わらないのもあって、ゲームのシナリオ通りなんです。性格もシナリオ通りです。
もし、このまま前世の記憶が思い出せなかったらきっと蛍も悪役令嬢のソフィアと同じルートを辿っていたかもしれませんね。
物語上で分かりやすく説明したかったのですが、実力不足で、それは厳しいと思い、後書きで軽く説明しました。
物語内で分かりやすく説明出来るように、もっと頑張ります。




